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Special Issue 別マー特集

更新日 2011/02/04

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本誌スタッフと学ぶ、支援学と利他性の経済学 murmur学園 舘岡ゼミ 講師 舘岡康雄さん/ゼミ生 服部みれい(マーマーマガジン編集長) 清水仁志(編集アシスタント) 中島基文(アートディレクター) リリアン(モデル)

murmur学園舘岡ゼミ最終回の第3回はゼミ生からの質問大会。
支援学=SHIENの考えかたがすてき!と思っても、
では、実際どう現実社会に落とし込んでいったらいいのでしょうか。
みなさんはどう思いますか? わたしたちも、いろいろと考えてみました。

第3回 SHIENは自分からはじまる
若い人はすでに高い共感力をもっている

(服部、以下服)これからの時代、それぞれが自分の天分を発揮して働くことが大切だということ、支援的な人間関係が問題を解決していくのだということなど、ここまで、舘岡先生の支援学=SHIENの考えをたっぷりとうかがってきました。今回は、みんなの感想や質問を聞いていきたいと思います。

(清水、以下清)支援学や利他性について、自分が正しく理解できているかまだ自信がありませんが、「ねばならない」の気持ちではもう立ち行かなくなるのだということに、とても共感しました。「してあげたい」という気持ちで自分から行動することで世の中が回っていけば、自然と喜びが連鎖していくのだろうなと思います。

(服)清水君は、編集部で編集アシスタントをしてくれていますが、もうすでに、そういう働きかたができています。「こうしなさい」っていわれなくても、たいてい自分から動いてくれるんです。たとえばですが、「服部さん、お茶がもうないので買ってきましょうか?」と、先に気づいて足りないものを補充し、おいしいお茶を淹れてくれる。非常にプロセスパラダイム的だと思う瞬間が、よくあるのです。

(舘岡、以下舘)今の若い人(※注 清水さんは現役の大学生)はそういう遺伝子をもって生まれてきていると思います。しかし、依然として、リザルトパラダイムの教育方法や価値観を若い人に押しつけているきらいがありますね。せっかく共感力の高い子どもたちが日本にもいっぱい育ってきているのに、そこを伸ばそうとしていないのです。

昨今では、教育の改革が日本再生の鍵としてよく語られていますが、わたしは教育の現場をいくら変えても、職場の環境がリザルトパラダイムにある限り、根本的な変化は起こらないと思っています。なぜなら、リザルトパラダイムの思想で仕事をしてきた先輩が大人数いるところでは、どうしてもその先輩の「プラクティス(日常的な営みや業務)」に習わなければ仕事になりません。本人がせっかくプロセスパラダイム的な思考をもち、高い志をもって会社に入ったとしても、結局は組織の色に染まっていってしまうのです。

教育が大切なのはもちろんのことですが、こうした職場のプラクティスを変えるサイエンスを考えていかないと、結局のところ日本はなにも変わっていけないとわたしは思っています。ともあれ、共感力が高いということは、これからの時代に必要なすぐれた能力です。これからも、がんばってくださいね。

(清)ありがとうございます。

(舘)中島さんからも、なにかありますか?

(中島、以下中)舘岡先生のお話を聞いて、日本を動かしているサラリーマンの方の大変さをあらためて知った思いがしています。あたらしいプロセスパラダイム的な生きかたが、ふだんの自分のスタイルにあてはまっていることも発見でした。ところで、現在のA社(本誌11号参照)について興味があります。借金返済を終えて、昔のA社と現在のA社とでは、会社の性格が変わっているのでしょうか。

(舘)A社は、大企業ですので、(本誌11号でご紹介した)川越胃腸病院のようなわけにはいかないのですが、でも、変化はありました。

A社には、1万人ものエンジニア集団が働いているテクニカルセンターがあるのですが、その建物の9階に社員食堂があります。1万人もいるわけですから、それはものすごく大きな食堂です。それほど大きな空間にもかかわらず、昔は、昼休みを除いては閑散としていて、わたしはそこを訪れるにつけ「もったいないなあ」といつも思っていました。会社がまだ危機的な状況だったころの話です。

しかし、会社が復活していく過程で、この食堂にだんだんと変化が現れました。人が集まるようになったのです。ミーティングをしたり、景色をボーッと見ていたり、女性社員が単におしゃべりをしていたり。

あるとき、わたしも同僚を誘って、この食堂でミーティングをするようにしました。ほかにもここで会議をするひとが増えてきていたのです。朝から夕方までずっと、この食堂で話し合うこともありました。すると、いつしかこの食堂にスクリーンが設置されることになっていました。パソコンやプロジェクターをもっていけば、立派な会議室というわけです。

わたしはこれを「シーンマネジメント」と呼んでいます。わたしは難しいテーマのミーティングをするときほど、仕事場以外の場所でやるようにしています。あえて仕事場を離れ、シーンを変えて行うのです。

以前のA社なら、自分の部署を離れることはありえないことでした。上司も「どこへ行くんだ!」と注意していた。職場放棄と場合によっては思われる状況です。でも現在のA社は職場を離れて、部門横断的に仕事ができるような環境です。雰囲気は大きく変わったといえるでしょう。

SHIENを浸透させるには

(服)それにしても、まだまだ大多数の人がリザルトパラダイム的な組織の中にいて、共通理解のない中で、プロセスパラダイムに移行していくには、いったいどうしていったらいいのでしょうか。

(舘)みなさんは、どうしたらいいと思いますか? みなさんがどう考えるのか、とても興味があります。「相手を答えとして見る」という意味でも。

(中)そうですね。A社の例のように、ひとりずつではなく、ある程度の人数で話し合える場をつくるのがよいのかなと思いました。なかなか難しいかもしれないですけれど。

(清)わたしは友だちに伝えることからはじめたいです。支援の考えかたをまわりに広めることで、将来的に多くの人を巻き込んでいければいいと思います。

(服)わたしは、本誌でもいっている通り、自分を大事にすることからかなと思います。自分のことを大事にしていないと、支援的になれない気がするのです。自分を大事にしていると、「してもらう能力」もあがってきて、助け合う循環ができていくというか。

でも、です。自分の場合で考えてみると、わたし自身がまだまだリザルトパラダイム的な手法をとっている面があります。

さっき、清水君がプロセスパラダイム的に自分で気づいて動いてくれるという話をしましたが、一方わたしのほうは清水君に、リザルト的、つまり、上から「こうしてほしい」というような管理的なアプローチをしていることもあるんですよね。舘岡先生のお話を何度も聞いていたり、支援研究会に参加したりしているにもかかわらず。

(舘)リザルトパラダイムとプロセスパラダイムについて講演をすると、よく「じゃあ、管理はなくていいんですか?」と聞かれることがあります。でも、「方法としての管理」と「思想としての管理」では、わけが違うのです。

みれいさんがときどき管理的なアプローチになるというのも、結局方法としてそうなるというだけであって、思想はプロセスパラダイムに重きを置いていると思うんですね。わたしが今日無事にここに来られたのも、バスや電車のダイヤがきちんと管理されていて、時間通りに動いていたからです。「管理」がしっかり行き届いていないと、こうはなりません。

古いパラダイムと、あたらしいパラダイムは思想としては共存しえないですけれど、方法としては共存できるのです。

(服)なるほど。それにしても、舘岡先生のSHIENの考えかたそのものって、「いのち」や、「からだ」のシステムのようですよね。自然のシステムに近いと思うのです。自然というシステムは、とっくの昔からお互いを支え合い、能力を引き出し、引き出されることで動いてきました。人間がやっとそこに追いつこうとしている、という印象です。

(舘)そうですね。ただ、わたしは焦る必要はないと思っています。

人類の歴史というのは、たとえるなら、朝日が昇って、街が照らされるときに似ています。朝日が昇ると明るくなるけれど、街全体が均一に照らされるわけではないですよね。朝日があたる場所もあれば、陰になる場所もある。

世の中で、プロセスパラダイムにすんなり移行する部分がある一方、古いリザルトパラダイムも根強く残り続ける部分もあるのです。

大切なのは、まずは朝日に照らされた人たちの中でネットワークを強めていくことです。はじめは陰の部分が多いように思えるかもしれませんが、やがて光は行きわたります。

先ほど清水さんが「友だちに伝える」という方法を話してくれましたが、ことばにして伝えるということも大切です。ことばを声に出すと、最初の聞き手は自分になりますから、まず自分にスイッチが入るんですね。それが機となり、自分から支援的な行動がとれるようになるでしょう。

人間の長い歴史から考えれば、一挙にすべてを変えられるわけではありませんが、朝日が少しでも多くの場所に届くように支援学、SHIENの活動があると思っています。

プロフィール

[たておか・やすお]

東京大学工学部卒。大手自動車メーカー勤務を経て、現在、静岡大学大学院教授。1996年より「プロセスパラダイム」を提唱し、支援学を開発。北京大学、スタンフォード大学など国内外で講演多数。著書に『利他性の経済学―支援が必然となる時代へ』(新曜社=刊)。「別マー」でも新連載スタート予定!

舘岡康雄さんはエコ部にも登場されています



↓舘岡康雄さんの一対一のインタビュー「支援学と利他性の経済学入門! あたらしい時代の あたらしい働きかた読本」は
 本誌11号でご覧いただけます