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リレー・エコ連載

更新日 2009/1/30

エコ・リレー連載 murmur学園 エコ部!第1回/「エコ部!」では、今さら人に聞けないエコの「きほんのき」から、エコにまつわる、かわいくてちょっとしたアイデアを、各界の方々にご紹介いただきます。部活の先輩に教わるように、甘酸っぱい気分で、学んでいきましょう!

エコのことを考えれば考えるほど、経済の問題が深く太く絡んできます。しかも、この世界的な経済危機。システム全体&一人ひとりの意識の大きな変革が求められているということは、どうやらまちがいありません。でも、一体どうしたらよいの? 『利他性の経済学』の著者、舘岡康雄先生にうかがいました。舘岡先生、よろしくお願いいたします。

第8回:舘岡康雄さん/経済はどうなっていくのか――21世紀のエコな経済学

現下の経済危機は
忘れていたものを取り戻すチャンス?

 経済学におけるエコ、今回はそれを考えてみましょう!

 経済学というと、景気の調整やいかに財を生み出し分配するのか――そういうテクニックやスキルのことと思われている人が多いのではないでしょうか。家計簿の経済学、すなわち倹約とか貯金などもその線上にあるかと思います。でも、本当の経済というものは、一人ひとりが自らに与えられている創造性を発揮して、それを他の人や社会に役立てることなのです。この「相手に役立てる」というところが特に大切なところです(ちなみに、経済の語源は、世の中を治め、人民を救うことを意味する経世済民ですね)。

 ですが、現実には「誰もが自分の利益の最大化のみを目指して行動するに違いない」という前提を拭いきれません。ですから、自分が相手の役に立っても、利用されるだけ。いかにフリーライド(出し抜く人)を防止しようか、出し抜かれたら、今度はどうやって、自分が相手を出し抜こうか? アメリカとしてはCO2削減には賛成でも、ロシアだけが利益を上げるなら、京都議定書に批准はできない、というわけなのです。

 地球的規模で考えるなら、誰もがおかしいと思いながら、いつまでもこのように自己の利益のみに焦点をあてた、経済学が発展してきました。

お金を回すためのお金、
金融商品が現われて……

 ちなみに、むかしはAさんが作ったa商品と、Bさんが作ったb商品を物々交換していたのんびりとした時代がありました。お互いの特徴(価値)が交換されているだけでよかったのです。やがてお金が出現して、もっと広い範囲で、多くの価値が交換されるようになります。そして、産業革命が起こり、より価値の高いものを創るのに、より多くの資本が必要となり、資本を調達するための市場ができます。ここまでは、モノやサービスを生み出し、私たちの生活を便利で豊かなものにするために合理的であったといえます。多少荒っぽいやり方ではあるのですが……。

 しかし、技術の進歩や付加価値の創出による利益享受(実体経済)ではなく、お金を商品としてお金を手に入れる方法(金融工学)なるものが出現します。しかも、それはそれまでの資本市場や金融システムとたくみに連動しているのです。

 手っ取り早くお金が手に入るということで、従来の金融システム(銀行、生保、投資家等)もこの金融商品に手を出しました。モノやサービスの対価としてのお金ではなく、お金を回すためのお金に……。そして、その金融商品は穴ぼこだらけだったのです……。資本市場に健全なシグナルがフィードバックされえない、信用バブル化商品だったのです。

自分だけが利益を上げても
もはや幸せにはなれない

 では、どういう生き方が21世紀にふさわしい、経済におけるエコな生き方なのでしょうか。こうした悪循環に巻き込まれず、こうした悪循環を是正しうる生き方とは……?

 21世紀の経済学は、自己の利益を対象にするのではなく、自己と相手の利益を達成する「支援の経済学」に入らないといけません。自分だけが利益を上げても、もはや幸せにはなれないのです。

 例えば、先に出た京都議定書ですが、アメリカがロシアだけが有利になると思って、この議定書に批准しないとすると、地球の気候などが変化し、大型台風などによって、結局自国や自国の国民に大きな被害を招いてしまいます。ロシア側からいうと、京都議定書は自国に有利だからといって、それが通ればよいといって、アメリカに配慮しないと、次に別の国際協定において、アメリカだけが有利でロシアが不利なときに、同じような処遇をアメリカから受けるであろうことは容易に想像がつくでしょう。だから、自分の利益に加え、相手の利益をも実現できるような解(ソリューション)を徹底的に互いに求め、互いが互いに対して「してもらった」と思えることがとっても大事なのです。

 つまり、他者と一緒に利益を上げないと地球は生き残れなくなったのです。そういった観点を含め、わたしが提唱するSHIEN(支援)とは、

従来、重なりのなかったところに重なり(相互浸透過程)を創って、「してもらう/してあげる」を交換すること。

 従来の支援と区別し、[SHIEN]と呼んでいます。

 このような他者と自己を両立しうる心の要素を含めた経済活動を行なうことができれば、社会は変わるだろうと考えます(詳しくは、『利他性の経済学』<新曜社=刊>という本に書いてあるので、ぜひ読んでください)。

志を磨き、
天分を発揮する時代

 相手の天分を奪うような人からは遠ざかりましょう!

 高い精神性の人々と交わり、経済活動を展開していきましょう! 精神性の高い人々は、お互いに相手の天分をリスペクトし引き出しあうので、効率と効果が最大化され、明るく面白く活動ができるのです。出し抜かれることでの不利益や、信用をモニターするコストがいらなくなるので、正にエコな経済学の実現が可能なのです。しかも、その結果、両者の利益が実現されるのです。自分の利益を守ることに合格でも、相手の力を引き出すことに落第であってはなりません。否、むしろ相手の力を引き出すことに皆が合格であれば、最初に述べた経済の本質、「一人ひとりに与えられている創造性を発揮して、それを他の人や社会に役立てること」が実現されるといえるでしょう。

 そうしたエコな21世紀の経済学を身につけた人々によるチームが新しい時代を切り開いていくのではないかと考えています。

 こうした活動を、昔から支援的な感性を身につけていた日本人からはじめていこうではありませんか!

舘岡康雄
profile
〔たておか・やすお〕
1979年東京大学工学部卒。日産自動車中央研究所、研究開発部門、生産技術部門、購買部門、品質保証部門を経て、人事部門ではNW(日産ウェイ)の確立と伝承を推進し、現職は静岡大学大学院教授、MOT担当。2002年度経営情報学会論文賞受賞。1998年よりプロセスパラダイムを提唱し、支援を機軸としたマネジメントに関する講演を開始。国内外における学会発表、講演多数(青山学院大学エグゼクティブMBA、一橋大学MBA、モスクワ大学エグゼクティブMBA、北京大学MBA、スタンフォード大学等)。主な著書に『利他性の経済学−−支援が必然となる時代へ』新曜社(2006年)。博士(学術)。早稲田大学客員研究員、ビジネス・ブレークスルー大学院大学客員研究員、経営情報学会理事、ABEST21(専門職大学院認証評価機関)専門審査委員、支援研究会主宰。