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Special Issue 別マー特集

更新日 2011/01/07

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本誌スタッフと学ぶ、支援学と利他性の経済学 murmur学園 舘岡ゼミ 講師 舘岡康雄さん/ゼミ生 服部みれい(マーマーマガジン編集長) 清水仁志(編集アシスタント) 中島基文(アートディレクター) リリアン(モデル)

11号では「あたらしい時代の あたらしい働きかた読本」として、
支援学を提唱する舘岡康雄さんにご登場いただきました。
本誌では、一対一のインタビューとしてお届けしましたが、
実はこのインタビュー、スタッフやゲストも同席して、講義のような形で行われたもの。
そう、まるで「舘岡ゼミ」だったのです。
双方向に意見を交わし、お互いのよいところを引き出し合う
舘岡先生の講義は、まさにプロセスパラダイム※1 そのもの。
別マーでは、本誌でご紹介しきれなかったお話を、ゼミ生全員参加でお届けします!

※1 舘岡先生が提唱する、「こころ」や「つながり」を重視した、21世紀型の支援的なありかた

第1回 支援的なこころを育むには
「ねばならない」では、本当の変化は起こらない

(服部、以下服)従来の「させる/させられる」という、トップダウン方式の働きかたが通用しない時代に入っていて、これからは「してあげる/してもらう」といった、お互いの能力を引き出し合う働きかたが求められている、というお話をうかがってきました。自然に助け合うことができる、「利他性」という価値観を身につけるためには、どうしたらよいでしょうか。

(舘岡、以下舘)とても有名な外科医の先生がこんな言葉を残しています。「わたしは病気の治療をしてきて、たくさんの患者を診てきた。しかし、治療する相手、その人を見たことは一度としてなかった気がする」。ノーベル賞をとるほどの先生が、晩年になってこんな後悔をされているんですね。

この話を聞いて、みなさんはどう思われましたか? 自分の職場や家庭を思い浮かべて、「ちゃんと相手を見ないといけないな」と思ったのではないでしょうか。でも実は、「相手をよく見ねばならない」、「思いやりを持たねばならない」といった、「ねばならない」では、本質的な変化は起こりません。「行動をこう変えなくてはいけない」と頭で理解することと、本当に実行できることには、大きな差があるんですね。

では、自然にやさしい気持ちがわいて、思いやりのある行動がとれるようになるためには、どうしたらよいのでしょう。リリアンはどう思う?

(リリアン、以下リ)状況にもよるのですが……。難しいですね。

(舘)効率重視のマネジメントや物質的な豊かさといった環境に慣れてしまっていると、かわいそうなものを見ても素直に「かわいそう」と思えず、「かわいそうと思わなければ」という発想になってしまう人も少なくないと思います。自然に「かわいそうだな」と思えるこころが育つにはどうしたらよいか、ということなのですが。どうですか?

(清水、以下清)自分がやさしくなるためには、人からもやさしくしてもらうことが必要だと思います。「自分ひとりではじめよう」と思わずに、「みんなでこんなふうにしていこうよ」と声をかけて、たくさんの人を巻き込んでいくといいと思います。

(中島、以下中)わたしの場合……、人の皮膚にフォーカスしてみます。

(服)皮膚?

(中)人の皮膚の表面をよく見て、その人を自然の産物として認識し直してみるんです。そうすると不思議とその人にやさしくなれます。目の前のリリアンの肌にフォーカスしてみたりね(リリアンの肌をまじまじと見る)。

(一同)おもしろい!!(笑)

(服)わたしは、自分が楽しいとき、得意なことをしているときなど、自分が満たされているときが、一番人にもやさしくいられるような気がするので、まず自分がそうあることからはじめるかな。自分が満たされた状態だと、自然にまわりの人にも気持ちが向けられるようになるので。

日本人には支援的な感性がある

(舘)みなさん、すばらしいですね。わたしはこのことについていくつか仮説を持っていますが、ひとつここでいえることは、思いやりのある優れた経営者はみんな、自然に触れる機会を持っている、ということです。どうやら、「人生の中で自然に触れて過ごす時期がある」というのが優れた経営者の共通点のようです。

(一同)へえ!

(舘)中島さんの人の肌にフォーカスするというお話も、要するに「他人を自然として見つめる」ということだと思うので、通じるところがあるかと思います。

日本人はもともと自然とひとつになって暮らしてきました。かつての江戸の街は100万の人口を誇る世界一の都市でありながら、美しい木々に囲まれ、橋も庭も畑も、人の暮らしすべてが自然の中に溶け込むようにつくられていたのです。現代のコンクリートに囲まれた環境とは大違いですね。江戸の街を訪れた外国人のエリートたちは、巨大な村のように成り立っている江戸に驚き、巨大であるにもかかわらず、ひとりの乞食もいないこと、人々がみんな礼儀正しいことにも驚いたそうです。自然に囲まれた環境で暮らしていた日本人には、自然と支援的な感性が備わっていたんですね。

(服)江戸時代は、お墓など死にまつわるものも、生活のすぐ近くにあったそうですね。死も自然の一部と考えると納得です。

(舘)幕末、吉田松陰は「こころを育む研修」といえる方法で、国を動かしていく人財を短い期間で次々と育てました。なぜ、そんなことができたのかというと、日本文化の中に、人間と自然の関わりかた、あるいは、人間と人間の関わりかたが、支援的な形で定着していたからだと思います。そして、これこそがこれから日本が世界に貢献していくために必要なことなのです。

(服)支援の能力を伸ばすことができるかどうかが、鍵になるのですね。

(舘)文明というのは物質という面では、いろいろとよくわかってきて、ビルもできて、新幹線もできて、ロケットも飛んだ。ニューヨークにおいては道路の総延長より、エレベーターの総延長の方が長くなったそうです。

しかし、物質についていくらわかってきても、こころについてはまだまだといえます。最近では「大切なのは、こころだ」という原点回帰的なこともいわれるようになって、「科学にも、もっとこころを入れていこう」という動きも増えてきました。たとえば、植物の成長を見るとき、植物に声をかけたり愛情を込めたりすると、よりたくさん実をつけたり、大きく育つといったことが起こるという研究もあります。

でも、これは結局、こころを物として対象化し、たくさん収穫をあげるなどのために利用しているといえる。本当のこころを扱う科学というのは、そういったアプローチではないと思うのです。もっと自然な形でハッピーな気持ちになれる科学がある。「とりにいく」科学ではなく、「やってくる」科学。こころを手段化しないのです。こころがわたしたちにもたらしてくれるものは、そんなけちなものではないと思いませんか。これはプロセスパラダイムのさらに先にある、コーズパラダイムのことでもあります。コーズパラダイムについては、次回お話しすることにしましょう。

(リ)プロセスパラダイムには、さらに先があるんですね!

喜びの交換で世界が回る

(舘)話を少し戻します。どうしたら自然に相手を思いやる働きかたができるか、ということなのですが、A社※2 の例でお話ししましょう。

A社が復活するために、部門や役職を越えて集められた200名によるクロス・ファンクショナル・チームが活躍したことは先にお話ししましたが、もっと少人数のVアップ・チームという組織も会社に大いに貢献しています。

Vアップ・チームとは、なにかひとつの問題があるとき、その問題についての担当者が、会社の中から誰でも好きな人10名を選んでチームをつくり、解決にあたることができる、というシステムです。選ばれた10名は忙しくても自分の仕事の手を止めて、その人のために集まらなくてはいけません。そしてみんなでその人の問題を解いてあげるのです。

たとえば解決策の中にITの能力が必要だとすると、ITの能力がある人がいれば、そのチームの中でITについての担当となり、解決策を持ち帰り、その人に代わり実施してくれるというわけです。Vアップ・チームの合理性というのは、メンバーを呼んだ担当者にとっては、「忙しい人たちが時間を割いて集まってくれて、親身になって支援してくれた」ということでモチベーションが高まり、一方の呼ばれた人たちにとっても、「忙しいのに……」とは思いながらも、やはり必要とされた喜びがあるので、自然とモチベーションが高まるというところにあります。

チームに呼ばれて、「わたしの意見を採用してくれた!」といって泣き出してしまう女性もいたほどです。この喜びが仕事に与える効力ははかりしれないものがあります。これがわたしのいう支援なんですね。「させる/させられる」ではなく、「してあげる/してもらう」働きかた。お互いの喜びを交換することで、世の中が回っていくときが来るのです。

(第2回へつづく)

※2 倒産寸前の状態から奇跡の復活をとげた大手自動車会社。舘岡先生は会社を復活へ導いた「A社ウェイ」の確立に携わった

プロフィール

[たておか・やすお]

東京大学工学部卒。大手自動車メーカー勤務を経て、現在、静岡大学大学院教授。1996年より「プロセスパラダイム」を提唱し、支援学を開発。北京大学、スタンフォード大学など国内外で講演多数。著書に『利他性の経済学―支援が必然となる時代へ』(新曜社=刊)。「別マー」でも新連載スタート予定!

舘岡康雄さんはエコ部にも登場されています



↓舘岡康雄さんの一対一のインタビュー「支援学と利他性の経済学入門! あたらしい時代の あたらしい働きかた読本」は
 本誌11号でご覧いただけます