連載

kai

第3水曜更新
Magical Mayberry Muffins
Episode 7 Knowing Love, Being Love

by kai

◎前回までのあらすじ

アメリカから帰国したNaoは、湘南の町で暮らしている。彼は砂浜で一人の女性と友人になり、頻繁に会うようになった。この日も、Naoと彼女はおしゃべりを楽しんでいた。

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あたしのママの話、もっと聞かせてほしい、ですって?

Sure! もちろんよ。じゃぁ、今日はママの話をしましょう。

 

ママの職業は、パティシエだったの。

仕事としてケーキや焼き菓子を毎日作っていたのに、休日になると、決まってあたしが大好きなバタークッキーを焼いてくれた。

そうそう、毎年あたしのバースデーにはね、お砂糖の絵の具で絵を描いたアイシング・クッキーを作ってくれたりもしたわ。そのクッキーがあまりにキュートで、賞味期限ギリギリまでお部屋に飾っていたら、「早く食べちゃってよ! 風味が落ちるから!」って、いつも怒られたっけ。パティシエのこだわり、ってやつよ。

ママは、よくこんなことを言っていたわ。

「ねぇ、Nao。お菓子って、ホッとしたいときや、癒されたいときに食べたくなるでしょう。それはね、お菓子が愛でできているからなの。

お菓子を焼くとき、その先には誰かの安心や癒しがある。誰かの笑顔がある。それって、愛だと思わない? ママはお菓子を作るたび、愛の存在でいられるのよ」

だから、ママはお菓子作りが好きだったんだと思う。そしてたしかに、ママは「愛の存在」そのものだったと思う。

 

中学生になった頃、恋愛対象が男の子だってことを、ママには知っていてほしくて話すことにしたの。いわゆる、「カミングアウト」ってやつね。

受け入れてくれることはわかっていた。それでも、少なからず緊張していたあたしは、言葉を探しながら、おそるおそる打ち明けた。

すると、ママは何も言わずに、あたしを抱きしめた。始めはそっと、それから、ぎゅうっと。

ママのサラサラの髪が顔をかすめるたび、ほのかにバターの甘い匂いがした。

ママは、抱きしめていた腕をゆっくりほどいて、あたしの目をまっすぐに見た。

そして、言った。

「伝えてくれてありがとう。でもね、ママは今、腹が立っているの。もちろん、あなたにじゃないわよ。

“人と違うセクシュアリティであることを、周りに理解してもらわなければいけない”。

そんなふうに思わせる、この世界の空気に腹を立てているの。

いい? 人間はね、肉体じゃなく、その奥にある精神、もっと言うなら、魂の部分で惹かれ合うの。わたし達は、性別なんて関係なく、魂と魂で愛し合う生き物なの。

でも、世界の大部分は、まだそのことに気づいていない。自分達が決めた真実だけが正しいと、信じきっている。

そうやって世界は、うんざりするほどゆっくり進んでいく。そのゆっくりさに、ママはヤキモキしちゃうのだけれど。

もしかしたら、そんな世界に疲れてしまった人のために、ママはお菓子を作っているのかもしれないわ。

それからね、Nao」

ママは少し呆れたように笑った。

「こんなふうに改まって伝えてもらわなくても、ママはとっくに気づいていたわよ。あなたのこと、ママより理解している人なんて、この世界にいないんだから」

ママの言葉の全部が、ママだった。そして、全部が愛だって思った。

 

ママは仕事LOVEな人だったから、家にいないことも多かった。

でも、あたし、ぜんぜん寂しくなかった。それは強がりじゃない。ママがどこにいても、何をしていても、ママの愛をいつもそばに感じていられた。

「愛は与えるもの」だってよく言うでしょう。でもね、ママを見ていて思ったの。愛としてそこにいる、ってことが、もうすでに愛なんだって。

ママは、愛そのものとして存在することで、あたしを愛してくれた。

それは、優しさとか思いやりとか、そういうものを超えた、完璧な愛し方だったと思う。

 

「あなたは世界で一番幸せよ。

だって、ママの子どもになれたんだもの」

 

10年前、天国へ旅立ったママの、最期の言葉。

ほんと、最後までママらしいわ。ここまできたら、もはや暗示よね。

でも、おかげであたし、自分が世界で一番幸せだって、一度も疑ったことがないの。

つまり、ママの暗示は、大成功したってことね。

You know?

 


 

(この物語はフィクションです。実在する場所が登場しますが、登場する人物・出来事は全て架空のものです)

 

 

 

kai 【かい】

セラピスト、アーティスト、文筆家。2011年よりスピリチュアル・カウンセラーとして活動(2020年に休止)。現在は鎌倉のショップを不定期で運営しながら、アート表現、執筆、講座などを行う。主な著書に『kaiのチャクラケアブック』(エムエム・ブックス=刊)、『自分を愛する本』(服部みれいとの共著 河出書房新社=刊)、『わたしがととのう毎日のチャクラケア』(服部みれいとの共著 徳間書店=刊)。また、2025年秋に発刊したライトノベル『PEACEFUL PLUOT PIE』(個人出版)は、この物語の前日譚である。
2026年6月11日に最新著書『10年周期 ハレとケの人生マップ』(エムエム・ブックス=刊)が発売。6月から、みれい☆かるちゃ~☆すく~るで第1チャクラ講座を開催。Spotifyで配信中のポッドキャスト番組「スピりラジオ」も人気

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