別マーアーカイブ

トップ > 別マー特集 :オーガニックコットンの秘密 > 大正紡績の近藤健一さんに聞いた 世界中をしあわせにする オーガニックコットンのお話

Special Issue 別マー特集

更新日 2008/08/22

01:NADELLデザイナーヨナさんがオーガニックコットンにとことん、こだわるわけ

本誌のコラムにご登場いただいた近藤健一さんは
世界の繊維業界が注目する糸のスぺシャリスト。
世界200か国近い農地をオーガニック栽培にする活動を続け
ユニークな糸の開発を行っている方です。
本誌でご紹介しきれなかったインタビュー、一挙公開です!

大正紡績の近藤健一さん

profile
〔こんどう けんいち〕大正紡績株式会社・取締役営業部長。倉敷紡績を経て、現職。オーガニックコットン導入で、赤字だった大正紡績を立て直した。糸の開発でも有名で、世界中のデザイナー、ブランドから注目され続けている。

インドのオーガニックコットン畑 現地の方々と話す近藤健一さん
ある記事がきっかけでオーガニックオタクに!?
――近藤さんが、オーガニックコットンに出合ったきっかけはどういうことだったのですか?
近藤さん(以下敬称略) 1989年にニューヨーク・タイムズでサリー・フォックス(※註1)の記事を読んだことがきっかけで、わたしのオーガニック人生ははじまりました。サリー・フォックスは「オーガニックで農作物をつくらないと、世界がおかしくなる」ということをはじめた人なんです。
記事の中で彼女は、綿花を育てるときに撒かれる大量の枯葉剤や農薬によって、カリフォルニアが砂漠化していき、やがて人間が住めない世界が来るということを警告していました。
その後、アメリカの新聞で詳しい内容を知り、彼女に賛同することが地球環境を守ることになる、と直観したんです。それ以来、わたしはオーガニック一筋、オーガニックオタク(笑)。わたしたちのような世界を駆けるエンジニアが、世界中の人々に本当のしあわせを説いて回るしかないなと思ったわけです。
――綿花に撒かれる農薬の多さについて、おぼろげには知っていましたが、今回特集を組んでみて、本当に驚きました。
近藤 綿花はもともと自然のものですから、昔は完熟したものを手で摘んでいました。しかし現在の先進国では、九分ぐらい熟れると促進剤と枯葉剤を飛行機で大量に撒いて、機械で摘むという農法が主流になっています。
大量生産と企業の利益追求のために、自然を犠牲にしているんですね。今、地球環境は、もうどうしようもないほどの危機に直面していると思います。

オーガニックにして収入が 2倍になったインドの人々
――今までどれぐらいの国を回ったのですか?
近藤 197か国です。ですから、一般によく知られていないような国も数多く回っているんですよ。
――すごい! 各国の農地を、オーガニック栽培に変えていく活動をされているのですよね。
近藤 ええ。コットンだけでなく、カシミアもウールも……みんなオーガニックでつくるよう、世界の国々の情報を集めてその国に合った方法を紹介しています。
コットンに関しては各国、原綿を生産する段階まで、かなりオーガニックへと変わってきています。でもそういった国々のなかに、日本が入っていないというのが残念ですね。今、日本は何でも輸入に頼りきっています。でも、衣、食、住のうちの着るものと、食べるものぐらいは自分の国でつくれないと、本当の豊かさは得られないのではないかと思っています。
――本当にそうですよね。昔は何でも国内でまかなっていたんですものね。
近藤 綿でいえば、和綿で布団も着物もつくっていました。和綿(もちろん昔はオーガニックコットン)というのは中に空洞があって、その空洞に空気が入るので、ふっくらとしてあたたかいんですよ。一方、農薬を使ったコットンというのは、枯葉剤で空洞がつぶれてしまい、後で人工的に空洞をつくるので、オーガニックコットンほどはふっくらしていないんです。
――どんな製品でもそうですが、つくり手にとって一般の商品をオーガニックののものに切り替えるというのは、すごく勇気がいることなんじゃないかなと思うんです。農地をオーガニック栽培に変えていくことに対する、現地の方々の反発はないですか?
近藤 何よりまず、つくり手と、できあがった商品を買ってくださるお客さん、双方のしあわせを考えるということが大切だと思います。
たとえば今、世界中の農民たちの多くがなぜ生活に苦しんでいるのかというと、農薬がとても高いからなんです。農民の方々は、農薬がないと農業はできないと思っているから、借金をしてまで買ってしまう。
わたしはそういうところへ行って、ミミズ培養による肥料づくりやその土地に合った情報を紹介しています。有機肥料をつかって綿を育てると、2か月ぐらいで花が咲きます。それを枯葉剤を使わないで手で摘めば、ゴミも出ません。
この農法を実践して、実はインドの人たちの収入は2倍以上になっています。借金をしなくてすむし、農薬を使わないから健康でもいられます。
農薬を使わないということは、できあがった商品を買ってくださる方たちの健康にもよいことですから、よいことづくしなわけです。これこそ“みんながしあわせ”ということだと思うんです。
――それが、本当にすごいと思います。(よいことって)やればできるのだ、ということを教えていただいたというか……本当にすばらしいことだと思います。
わたしの仕事のなかでもうひとつ重要なのは、フェアトレードです。親会社が海外の子会社に対して、不当な注文をしないということ。また、未成年者を働かせていないか、不当な賃金で働かせていないかということもとても大切です。
買い手に対しては、デザインをもっとよくしていくことも大きな課題ですね。
人にも環境にもやさしい オーガニックコットン
――使う側にとってのオーガニックコットンのよさって、どういうところにあると思いますか?
近藤さん まずは安全であること。実は、わたしはオーガニックコットンに出合ってから、枯葉剤を使ったコットンを着たことは一度もありません。ちなみに、今着ている服もオーガニックコットンで、10年間着続けているんです。
――10年着ているとはとても思えません! 新品みたい。丈夫なんですね。
近藤 わたしは若い女性に、オーガニックコットンは気持ちがよくて、からだにやさしいものなんだということをまず伝えたいんです。軽くて、洗うほどにふかふかしてきます。
しかも、オーガニックコットンを使うことで、わたしたちのかけがえのない地球を守ることになり、自分の健康なからだを保つことができます。オーガニックコットンはすばらしい素材です。
――近藤さんの今後の夢は?
近藤 世界中にオーガニックのウェーブを起こしたいですね。オーガニックの畑を増やすことによって、地球環境が守られ、我々が健康で長生きできる社会になる。
日本ではまだまだオーガニックコットンの認知度は低いと思います。エコやロハスに対する意識も昨年くらいから変わってきているなと思いますが、まだまだ低い。意識が高まってくれば、おのずとオーガニックコットンを選ぶ人は増えると思います。
サリー・フォックスの記事を読んでからのわたしの人生は、世のため、人のためのものだと思っています。人々が気持ちよくすごせるような糸をこれからもつくり続けて、 世界各国でオーガニックの指導をしながら、たくさんの人々にしあわせをもたらしていきたいと思っています。 それがわたしのしあわせでもあるからです。
※註1 サリー・フォックス
アメリカの昆虫学者。農薬の代わりに有益昆虫を用いた綿花栽培方法や病害虫に強い綿花品種の研究、開発、栽培を行い、アメリカにおける綿花の有機栽培の発展に大きな貢献をした。

現地の方々と話す近藤健一さん

ニックコットンの選別風景。インドにて

現地のみなさんと



Photograph by Yosuke Furuta(A.N.P)/Kenichi Kondo
Interview & Text by murmur magazine