murmurbooks

小屋と畑

高橋博の 自然が何でも教えてくれる #01
毎月1日更新!

 

『マーマーマガジン』19&20号

「土とともに生きる 今いちばん気になる農の話」特集から早4年。

 

当時、取材させていただいた自然栽培の世界への感動と衝撃から、

マーマーな農家サイトが立ち上がり、

また、20号にご登場いただいた

自然栽培全国普及会会長の

高橋博さんに、21号から連載をお願いしていました。

 

ところが!

折しも、その後、マーマーマガジンは岐阜・美濃に移転。

編集部自身が、「土とともに暮らす」ようになり(!)

また、マーマーマガジン自体がリニューアルすることとなり(22号から詩とインタビューの雑誌に生まれ変わりました)

連載がストップしておりました。

 

ようやく、準備が整いまして!!

高橋博さんの連載、Webにて、リスタートです!

 

まずは第1回(21号の再掲)から、ご紹介してまいります!

 

高橋博さんが語ってくださる

自然への知恵は、

わたしたちが生きていくときの、

いきいきとした知恵そのもの。

お腹の底に力が湧いてくるような連載です!

 

 

月1回の更新、どうぞどうぞ、

お楽しみに!!

 

(服部みれい)

 

 

第1回 純粋なものでやっていく

 

今、食の世界がなぜ「安全・安心」なんていうようになってしまったのか。「安心・安全」なんて本当はあたりまえのことなんだよ。あたりまえのことがやたらとクローズアップされる時代っておかしいんだよ。でもそういうことばがもてはやされるようになった背景があるわけだ。その「背景」を自分もとことん味わった。

わたしが昭和25年に生まれたときは、いよいよ世の中が高度経済成長期に入ろうとしているころだった。人を蹴落としてでもモノと金を集めろという時代。こころを捨てろという時代。そんな街の風潮が田舎にも来て、農業も影響を受けた。
農業には産地間競争というのがあるんだ。片方の産地がつぶれるともう片方が潤う。たとえば、ある土地に大きな台風が上陸して大災害になると、その土地以外の産地の農家たちが喜ぶんだよ。「よかったー」って。人の不幸を喜ぶ職業だ。他人の家に何か不幸が起きて、経営がうまくいかなくなったら、別の家では内心喜んでいるというわけだ。
農産物というのは「1割増えると半値、1割減ると倍値」っていわれているんだよ。市場原理が働いているからね。だから、金を得るために人を蹴落とすことがはじまるんだよ。そうやって自分も汚れていったんだ。
わたしも学校を卒業して、28歳になるまで、そういう農業を10年間やってみたんだよ。最初、「なんという汚い人たちが“百姓”やっているんだ」って驚いたよ。

「よごれる」も「けがれる」も同じ漢字を書くよね。「よごれ」は洗えば落ちるけれど、気持ちの「けがれ」は洗っても落ちないんだ。純粋だった青年時代からどんどんどんどん汚(けが)れていく自分がいるんだ。でも、時代がそうだから、汚れざるをえない。だから、汚れようと構わず一生懸命がんばった。だって、それが一番時代に合った立派なこととされていたからね。

そんな生活を10年間やってみたんだけれど、こころのすみのほうがそれを許さないんだよ。「それでいいのか、おまえ。一生これだぞ」って。人をごまかし、嘘をつき、振ってはいけない農薬を振っちまうんだ。だってわたしが食べるわけじゃないんだから。商品なんだもの、早く市場にもっていって、換金することが目的なんだから。金をもらってきて、いい家に住んで、いい車に乗ることが最終の目的だからね。食べものだと思っていないんだ。商品としてしか思っていないんだ。そうすると、それを扱う人たちも同じなのよ。農作物が届いても、「食べものが来たぞ」っていわないからね。「商品が来たぞ」っていうんだから。商品だから、1円の差で儲かるんだからね。物流は、それで儲けるんだ。

食べるほうも生産者を知らないから、わがままになる。あれがほしい、これがほしいってね。現場を知らないからわがままになる。これらは合理化の中ではじまったんだよね。産業革命以来、ヨーロッパから伝来してきた合理主義。戦後の日本も、合理化はできたんだよ。あなたはつくる人、あなたは運ぶ人、あなたは食べる人、ってね。合理化して、社会としてはやりたいことがやれるようになったわけだけど、そこに人々の意思疎通がないから、それぞれが苦しみを生むようになってしまった。

28歳になったころ、もう、結論は出ていたの。女房と子どもふたりを連れて、この農業はやめてここを出るぞって。だってここにいる限りは汚れた自分でいるしかないわけだから。

そんなとき、ある日、ひとりの先生が訪ねてきた。そして無肥料、無農薬でつくる自然農法の話をしてくれたんだ。「いいですか。家にあがらせてもらえますか」っていって黒板を使って、自然農法の理念を説きはじめたんだ。当時は半信半疑だよね。「肥料や農薬をやったってまともに作物ができないのに」って到底信じられなかった。最初は、はすに構えてたよ。でも、聞いているうちに、「あんた、すごいこというねぇ! これから、この考えかたは、若者にモテるぞ、あんた」って先生にいったよ。

農業だけで人が救える? これは、やってみる価値があるんじゃないかと思った。これまでやってきた農業の技術は生きるし、「自然」の見かたを変えればいいだけだったからね。この汚れた現状を変えられるのはこれしかないだろうって。この純粋なものでやるしかないって、そう思ったんだよね。

 

初出 《マーマーマガジン21号》 連載

 

高橋博(たかはし・ひろし)

1950年千葉県生まれ。自然栽培全国普及会会長。自然農法成田生産組合技術開発部部長。1978年より、自然栽培をスタート。現在、千葉県富里市で9000坪の畑にて自然栽培で作物を育てている。自然栽培についての勉強会を開催するほか、国内外で、自然栽培の普及を精力的に努めている。高橋さんの野菜は、「ナチュラル・ハーモニーの宅配」にて買うことができる。

http://www.naturalharmony.co.jp/takuhai/