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新米社長福太郎便り

#8 for men 2号発売! 鎌田芳朗さんのこと 2

 

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前回のつづきです。

 

murmur magazine for men 2号「仕事のかみさまのすきな人」の

イラストでも描かせていただいた通り

鎌田さんのお家には何度か、お邪魔しているのですが

実は一度も張子の制作現場に立ちあえたことがありません。

 

鎌田さんのお家にお伺いすると、だいたい下記のようなコースになります。

 

1、鎌田さんのご自宅のコタツでしばし雑談

2、近所の鎌田さんの親戚にご挨拶

3、近所のお蕎麦屋さんで昼食

4、鎌田さんのご自宅に戻り、コタツに入って、しばしTV鑑賞

5、香取市佐原の町並みを散策、資料館などを3軒はしご(完全に観光)

(6、近所でおこなわれる合唱会へ、地元高校生などの歌声にひたる/本誌でご紹介の通り)

7、鎌田さんのご自宅に戻り、再びコタツTV

8、鎌田さんのお弟子さんであるOさんがご帰宅、しばし雑談

9、近所の定食屋にてOさんを含めた3人で夕食、定食屋にて解散

 

 

毎回「制作現場に立ち会いたい!」と意気込んで

「今回は制作現場を拝見させてくださいね」と実際にお願いもしています。

 

しかし……

なぜか……

いつのまにか……

 

ぼくは鎌田さんと一緒に近所の合唱会を観覧していたり

神社や町並みを観光していたり

近所の公民館で地元出身のオペラ歌手の歌声に耳を傾けていたり

郷土資料館みたいな場所で地元のお祭りの資料ビデオを観ていたり……。

 

夕食を食べ終わり、帰宅しなければいけない時間になって

「あれ? 今日何しに鎌田さんのところに来たんだっけ?」と。

 

まぁこれは取材というよりは、完全にデート。

 

そう、なかなか仕事はさせてもらえなかったのです。

(みれいさんには「究極の密着取材だね」と励ましてもらえるのですが……)

 

そんななか

今回の記事内容を確認していただくために

(専門用語でいうとゲラチェックをしていただくために)

ぼくは再び鎌田さんを訪ねることに。

 

前後に予定が詰まっていて

鎌田さんのところに居ることができる時間は3時間ほど。

それでも今回こそはきっちりと仕事をしてこなくてはいけません。

ぼくは何度も電話で「滞在時間は3時間です」と鎌田さんにお伝えし

事前に「今回は仕事させてもらいますぜ」というムードをむんむんに

意思表示したつもりでした。

 

しかし……

 

ぼくが鎌田さんのお家に到着した瞬間、「昼食に行こう!」と鎌田さん。

 

思慮が甘々なぼくは

たしかに昼食を食べてからでも、2時間ぐらい時間はあると算段。

「行きましょ♪ 行きましょ♪」とあっさりと賛同してしまいます。

 

鎌田さんのお弟子さんであるOさんの車に揺られてお料理屋さんへ。

そこまでの所要時間は約30分。

 

のんきに昼食をいただいていたぼくも、ふっと気づきます

「これで帰りも30分以上かかるとして……いかんいかん!!」と、

その場で原稿確認をさせていただこう、と鎌田さんにもちかけると

「ふふふ、福ちゃんそれはあとで家でやりましょう」とあっさりと断られます。

まぁ、帰ってからでも1時間ぐらいあるから、大丈夫だろう、と算段。

 

しかし「行きが30分だから帰りも30分」なんてことが、甘い算段であることは

35歳にもなれば、今までの鎌田さんとのやり取りで学習していれば

気づいても良さそうなのですが……(気づかないのが、タコ社長のゆえん…とほほ)。

 

道はすいていたんです。

でも「ここのアイスクリームがおいしい」と道の駅に寄っていただいたり

「福ちゃんは、この神社は行ったことなかったね?」と神社に寄ってくださったり。

どこで仕事や残り時間のことを忘れるのか

(鎌田さんにはそういう不思議な力がある気がする)

「この参道は、よく時代劇の撮影で使われるんだよ」なんてことを

教えていただきながらアイスをほおばり

爽快気分で神社の参道を歩いているときに

ふっと我にかえります

「あれ!? いつの間にか、いつものデートコースに!!?」と

バカすぎるツッコミを自分にいれました。

 

(そのとき、すでに帰らなくてはいけないタイムリミットまで

あと1時間を切っていたんです!)

 

 

その後も「あそこに寄ろうか? ここは観たか?」と

ぼくを楽しませてくれようとする鎌田さんたち。

ぼくはただただ「はやくご自宅に戻り、原稿確認させてください」の一点張り。

 

そんなこんなして、ようやく鎌田さんのご自宅にたどり着き

すぐに「鎌田さん、それでは原稿確認を……」とお願いした瞬間

今度は、まさかの近所のおばさま方が

鎌田さんのお家にあそびにいらっしゃるという事態に!

ぼくも含めてしばし雑談。

残り時間は30分を切る。

鎌田さんはおばさま方との雑談に夢中になられているし

事態はますますあやしい方向に…

 

と、その時!

 

鎌田さんはくるりとぼくの方を向いて

「ぼく老眼で文字が読めないから、読み上げてくれないかな?」と

おっしゃったのです!

(鎌田さんは現在81歳です)

 

一瞬、「え? この雑談ムードの中で記事確認? おばさま方にも聞かれるの?」と

正直、思いました。

しかしすぐに思い直し、近所のおばさま方と鎌田さんに記事を音読しはじめました。

 

記事を読みはじめると、

文章ごとにおばさま方から

「そんなこともあったはね〜、そうそうあの時は……」と

感想や思い出話がはさまれて、そこからまた雑談がはじまり、と

なかなか記事確認をスムーズに進められず

時間だけが過ぎていくかのように思えました。

 

しかし、負けずに記事を読み進めていると

ふいにお1人のおばさまが目元にハンカチを当てられ、

つられて他のおばあさまも鼻をすすりながらハンカチをとりだし……。

 

記事の後半にかかるとしーんとして

みなさんでぼくの記事に入り込んでくださっています。

読み終わると、目を真っ赤にされた鎌田さんから大きな拍手が!

それを皮切りに、みなさまから盛大な拍手をいただき

鎌田さんから大声で「なにも直すものはありません!!」とのお言葉。

 

そこから大慌てで帰り支度をし、じゅうぶんなお礼もお伝えできないまま

みなさんに見送られながら東京駅行きのバスに、乗り込みました。

 

バスの中で鎌田さんのことを考えました。

 

ご本人に読み上げて記事確認をする、なんてこと

もしかしたらベテランの編集者さんでも経験していないことかもしれません。

(通常は原稿をお送りしたりやデータをメールで送ってご確認いただきます)

 

編集者って、なんともたまらない仕事だな、と

編集者のへの字もわかっていない分際ですが、そう思いました。

ぼくはこれから死ぬまで本物の編集者にはなれないと思うけれど

出版社の新米社長として、とっても大事な経験をさせてもらったんだと

すぐに気づきました。

 

やっぱり、鎌田さんは仕事のかみさまがすきな人だ

ほんとうにたまらない人だ

 

ただただそのことを読者のみなさまにお伝えしたい

 

その思いは、この日一日を通して(いや出合ってからずっと)

鎌田さんが教えてくれたかけがえのないギフトなのです。

 

鎌田さん、Oさん、ご近所のみなさん

ありがとうございました!

新米社長兼新米編集者として日々精進しますっ!

 

 

 

※写真は、for men 2号発売後に突如鎌田さんから送られてきた手紙です!

3月20日(日)午前8:55〜9:00 フジテレビ放送の

千葉の贈り物という番組で 佐原張子(鎌田さん)が紹介されるそうです!

動く鎌田さんをぜひぜひご覧ください!

 

そして! なんと!

鎌田さん、今年の初夏頃、美濃にお越しいただき展覧会をしていただく予定です!

 

また追って詳細はこちらのHPでお知らせいたします。

どうぞお楽しみにっ!