murmurbooks

マーマーなリレーエッセイ

#20 中島正さん×やじーさん

みんな奥へ奥へと引っ越している

 

聞き手|服部みれい(『murmur magazine for men』編集部

 

『murmur magazine for men』3号で特集した

「中島正思想入門 みの虫生活のすすめ」。

「都市」という存在についてとことん明らかにし、

「都市」が生む問題を脱するには、

一人ひとりが「独立農民=みの虫」になり、

自給的に生きることだと鋭い筆致で説いた中島正さん。

2017年2月、中島正さんは、

この特集の制作中に残念ながら逝去されましたが、

今回追悼文を寄稿してくださったミュージシャンのやじーさんは、

生前も交流があった貴重な若者のひとりです。

2015年、中島正さん宅を一緒に訪ねた時のアフタートークを、

中島正さんのコメントも織り交ぜながらお届けします。

 

おじいさんの知り合いだった

 

——やじーさんが、中島正さんに出合ったのは

どういうきっかけだったのですか?

やじーさん(以下敬称略、や) ある時知り合いが

「お前、金山町(岐阜県下呂市)に引っ越したいといっとったけど、

中島正さんを知っとるんか?」っていってきて。

そのおじさんが「あの先生の本は読まにゃきゃあかんぞ」って。

グーグルで調べたら、『都市を滅ぼせ』(双葉社

というタイトルが出てきて、まず、ガビーン!と。

——その時は、名古屋ににいたんでしたっけ?

や 犬山(愛知県)にいた。

で、『都市を滅ぼせ』を買って、おじいちゃんおばあちゃんに

「この人、金山の人らしいけど知っとる?」って聞いたら、

「ああ、正さんか」って(笑)。

一同(笑)

や うちのおじいちゃんも

「正さんはいいぞぉ〜」っていっていて。

おじいちゃん、すごく口の悪い人なんだけれど、

正さんのことは一目置いたような感じがあって。

それで、そのまま家の場所を聞いて、

すぐに正さんに会いに行ったんです。

そうしたら『都市を滅ぼせ』の初版本が絶版になったということで、

僕もたくさん在庫となっていた本を段ボール1箱分もらって、

いろんな人に配りました。

ガイアシンフォニー』監督の龍村仁さんとか、

翻訳家の上野圭一さん……。

その箱の本を全部配り終わった頃に、 今度は、

この本に、アマゾンで5万、6万円と高値がつきだして。

——そうそう、一番高いとき、

みの虫革命』なんて7万円近くしたこともありました。

その後、『都市を滅ぼせ』は、倉本聰さんが再評価されて、

双葉社で復刊してまた読めるようになりましたが。

 

都市という存在がよく分かる

 

——今、実際に都会から田舎に移住する若い人もどんどん増えていて、

みんなが自然なかたちで「独立農民」になったらいいな、

と思っています。

マーマーマガジン編集部の身近では

本当にそういう人がすごく増えているんですが……。

や ドバドバ、増えてる(笑)。

——岐阜に引っ越してきて、名古屋などの大都市圏から

岐阜の山間部などに 引っ越す若い人がすごく多いのは、

なんか、感じています。

や ものすごく増えていると思います。

ここ10年で50倍くらいにはなってる感じがする。

みんな奥へ奥へと引っ越してる。

うちのバンドのメンバーも

正さんに鶏の飼い方を習ったりしています。

この近くにほとんどが空き家という集落があって、

あそこをみんなの村にしちゃいたいな

と 話し合っているんですけれど。

すごい夢が膨らむ!

中島正さん(以下敬称略、正) まあ、あそこは別天地ですわな。

——今、とにかく、これまでとは違う世界に行きたい、

縄文のような平和な世界に戻りたいと

思っている人は本当に多いと思います。

正 文明と称するものが人類の中へ潜り込んできて、

そこから悲劇がはじまった。

それまでは、野生動物と同じだったわけです。

学校もない。政府もない。役場も農協もない。

でも、平和に暮らしていたでしょう?

——本当にそうですね。

やじーさんの周りもみんな縄文人みたいな人ばかりだよね?

や みんなモジャモジャになってる(笑)

——わたしたちは、正さんややじーさんが 住んでいるところよりは

うんと町だけれど、 でも、畑も少しずつはじめたりして……

とにかく想像していたよりおもしろいことやたのしいことばかりだし、

美濃に引っ越してきてよかったなと思うことしかない。

やじーさんは、田舎暮らしはどうですか?

や  (街から来ると)どれくらいのペースで

ご近所付き合いしたらいいのかわかりにくいよね。

——わたしたちも、まだスタートしていないけれど、

人間関係、どれくらいおつきあいしたらいいのかわからない。

田舎暮らしで心配があるとしたら、みなさん、

ひとつにはそのあたりのことも大きいのかも。

や 消防団の勧誘とか来ても、

ツアーで飛んでったりしてたら僕、

なかなか行けないなって思って(笑)。

——消防団のことは、

移住する前に 地方への移住者の方々からよく聞いてました。

消防団入った途端、

コミュニティに入れてもらえた、 という話とか。

でも、うちは、気を遣ってもらっているのか、

勧誘にはまだ来ないです。

や ただ、僕は、祭りの笛だけは吹いてる。

——へえ!

や それだけ。

でも村の人たちが喜んでくれて。

「ちゃんと音を出せる人が来た!」って。

——得意なことをやるっていうのが大事なのかも。

や そうそう。

それでがんばるしかない。

あと、みんな、近所の人の目をすごく気にしますよね。

正 うん。

——同調圧力もすごい。

や だから変わったことはひとつもできない、みたいな(笑)。

だから、正さんが、本を出版しても、

近所の人にいわなかったのはそういうことなんだろうなって。

僕もCD出しても配ってない。

正 ああ。

や こっそりじわじわ……。

昔は正さんも、村人の前でお話されていたんですよね。

正 農業組合をつくって、

このあたりでも7軒か8軒ありましたな。

鶏を飼っとると(養鶏をしていると)、

しょっちゅう研修会だとか、会合がありますから、

慰労会もやるし、旅行へも行ったし。

ふつうに(まわりの人たちと)おつき合いはしてきました。

——正さんも、近所づきあいはされていたんですものね。

正 まあ、一般的な、常識的なことはふつうにおつきあいして。

や 昔、ひと回り若い世代のサブローさんという人に

「正さんってどんな人?」って聞いたら、

昔何かの集まりで前へ出て服の流行について話されたって。

「みんな、あたらしい服を着て、いい気になっているけど、

そういうものは業界が仕組んでいることだ」って話されたって。

正 服の流行なんかに乗るな、

アパレル業界が仕組んでるんだっていう話を。

や でも、それは、村の人もみんなとてもよく理解したって。

田舎にいると都市という存在がよく見えるんだよね。

みんな田舎の人は共通して認識していると思う。

町や都市がどういうものか。

 

(2015年、岐阜・下呂市にて)

 



やじー

1979年生まれ。岐阜の山村バンド「かむあそうトライブス」の唄、作詞&作曲、ベサンギと呼ばれる弦楽器を担当。ビックフェスから田んぼまで、はたまた政治家や学者から子どもに向けて、縦横無尽にシーンをまたぎ活動している。村内では鍼灸師として奮闘する四児の父。多くの自然治癒の事例を観察するにつれ、人体だけではなく社会、地球、宇宙の自然治癒現象に着目し、言葉を拾い、アウトプットし続けている。くわしくはこちらへ。