連載

kai

第3水曜更新
Magical Mayberry Muffins
Episode5 A promise with the pink cosmos

by kai

◎前回までのあらすじ

アメリカから帰国したNaoは、湘南の町で暮らしている。彼は砂浜で一人の女性と友人になり、頻繁に会うようになった。今日もNaoは彼女と町でばったり出会い——。

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……やだ、あなた、いつからそこにいたのよ。

え? 歩道の真ん中につっ立って、何を見ていたのかって?

あそこよ、ほら、この通りの向こうに見える空き家の庭に、ビッグサイズのソメイヨシノが通りを見下ろすように、でーんと立ってるでしょ。あたしの大切なBestie、ベストフレンドなの。「サクラさん」って、あたしは呼んでるわ。

ねぇ、見て。ところどころ、咲きはじめている。もうそんな季節になったのね。

あたしとサクラさんとの出会いは、ちょうどこの町に引っ越してきた頃よ。満開の桜が散りはじめた時期で、町中が、ペールピンクの花びらの絨毯を敷き詰めたみたいだった。

なかでも、サクラさんの咲きっぷりは、本当にAmazingだったわ。枝が通りに大きくせり出して、その一角だけ桜の花のトンネルみたいになっていたの。その下を歩くと、春のやわらかい風に吹かれた花びらが、あたしの肩や髪に、はらはらと降り注いだ。まるで、帰国したあたしに「おかえり」って言ってくれているみたいだったわ。

それ以来、海へ向かうときは、少し遠回りをしてサクラさんに会いに行くようになった。

“Hi!”

“How are you?”

“It’s such a beautiful day today!”

そんなふうに挨拶をするうちに、いつしかサクラさんは言葉を返してくれるようになった。

サクラさんとはいろんなトークをしたわ。天気のことはもちろん、近況のことやくだらない冗談、近所のゴシップまで(いや、ほとんどゴシップだったかも)。一日中おしゃべりしていたこともあったわ。

帰国してすぐの頃は、アメリカのことを思い出して、気持ちが沈む日も多かったけれど、サクラさんとおしゃべりしていると、いつのまにかフェイスもハートもスマイルになっていた。

人と植物ではあるけれど、あたし達は、まぎれもなくベストフレンドだった。

 

実はね、今日、サクラさんが切られてしまうの。

あの空き家の土地が売られてしまうことは、少し前にサクラさんから聞いていたわ。オーナーが亡くなって、息子さんが土地を手放すことにしたみたい。庭の木を全部切って、更地にしちゃうんだって。

「Nao。あなたとも、もうすぐお別れね」

サクラさんは、まるで「少し旅に出るだけよ」とでも言うように、いつもと変わらない口調で言った。けれど、あたしのハートは、そのことを受け止めきれなかった。どうしてこんな立派な木を切らなきゃいけないの。どうしてサクラさんとお別れしなきゃいけないのよ、って。

「あなたの気持ち、うれしいわ。でも、私のからだは、もうあちこちが限界なの」

彼女 ——そう、サクラさんは女性なんだけどね、彼女はもう90歳。ソメイヨシノの中では、かなりの長老みたい。だから、これでいいのよ、って。

ただ、彼女には、ほんの少し心残りがあった。

「私の仕事を引き継ぐ子が、まだ育っていない。このあたりの土地を、わたしよりも長く見守ってきた植物がいないの」

彼女は、この町の植物達のリーダーで、土地の守り神としての役目を担ってきた。だから、サクラさんがいなくなれば、この町のエネルギーは、きっと大きく変わってしまう。

「けれど、それもまた自然の順序よ」。彼女は言った。

ひとつの家に長く住み継いでいくには、古くなった建具や設備を入れ替えたり、時には思いきって作り替えたりするでしょう。変わらないでいるためには、変わり続けることが必要なのよ、と。

古いものが役目を終え、そしてまた、新しいものが生まれる。世界は、そうやって新陳代謝を繰り返しながら、続いてきた。

だから、きっとこの町も、良い方向へと変わっていく。全て完璧なのだから、って。

……頭ではわかっている。わかっているんだけどね。あたしのハートが、駄々っ子みたいに言うの。どうしてもう会えないの、もっとおしゃべりしたかったのに、って。

I’m really gonna miss you……you know?

 

あ。家の前にトラックが止まったわ。きっと、剪定業者の人達よ。

……え? うん、そうよね。切られると痛いんじゃないかって、あたしも心配で聞いたの。そしたら、痛みは感じないんだって。年を重ねたからだを支えるほうが大変だったから、むしろ楽になる、って。それを聞いて、ちょっと安心した。

 

さぁ、最後くらい、スマイルでいなきゃ、ね。

サクラさん、あたし、この町に来てよかった。あなたと出会えてよかった。

あたしはもう、大丈夫。きっと、大丈夫よ。

 

Wherever you are,

in all that you were.

あなたがどこにいようとも、

あなたを近くに感じている。

 

だから、さよならは言わないよ。

See you、あたしのBestie。

 


(この物語はフィクションです。実在する場所が登場しますが、登場する人物・出来事は全て架空のものです)

kai 【かい】

セラピスト、アーティスト、文筆家。2011年よりスピリチュアル・カウンセラーとして活動(2020年に休止)。現在は鎌倉のショップを不定期で運営しながら、アート表現、執筆、講座などを行う。主な著書に『kaiのチャクラケアブック』(エムエム・ブックス=刊)、服部みれいとの共著『自分を愛する本』(河出書房新社=刊)。2026年1月、徳間書店より服部みれいとの共著『わたしがととのう毎日のチャクラケア』が発売。また、2025年秋に発刊したライトノベル『PEACEFUL PLUOT PIE』(個人出版)は、この物語の前日譚である。初夏には、みれい☆かるちゃ~☆すく~るで第1チャクラ講座を開催予定。