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0910|あたためる、秋の養生|加藤祐里

 

みなさま、こんにちは。

郡上もりのこ針灸院の加藤祐里です。

 

わたしは美濃市のお隣の郡上八幡に住んでいます。

夏は避暑地として、清らかな川を楽しむ人が多く訪れるのですが、

なんと今年は連日の猛暑!

まさか、郡上八幡がお盆の徹夜踊りでなく、

「最高気温」で全国ニュースをにぎわすような時代がこようとは!

 

もりのこ針灸院に通われている80歳代の患者さんが、

毎年、キュウリ、トマト、ナスなどの夏野菜を

困るくらいたくさんわけてくださるのですが

「暑すぎて、畑で育てているナスの花が枯れてしまったなんて、

人生はじめて」とおっしゃるくらいの異常気象でした。

 

そんな夏を過ぎて、

これからくる秋を乗り切る養生が

今日のテーマです。

 

からだの奥まであたたまる、こんにゃく湿布

秋の養生といっても、わたしが言えることは

「冷えとりしてください」

ということだけです。

 

今年の夏は特に暑かったから、

冷やしすぎてしまった人もいると思いますが、

今からでも遅くありません。

 

‘ズボラ冷えとりさん’におすすめしたいのが

「こんにゃく湿布」です。

 

おなかや腰など気になるところにあてるだけ。

(編集部注*『うつくしい自分になる本』服部みれい=著 筑摩書房=刊に

くわしく掲載されています)

 

人のからだは7割以上が水分です。

こんにゃくのように水分を多く含むものの熱で

からだをあたためてあげると、熱が浸透しやすいので、

胃腸や子宮など、からだの奥にある臓器まであたためてくれます。

 

ホッカイロのような乾いた熱だと、

皮膚の表面はあたためられても、

からだの奥の臓器の血流があがるほどまでは

あたためられません。

 

こんにゃく湿布は、針灸師の資格をとる前の、

何の道具も腕もないときから続けてきました。

 

助産師として病院で働いていたころは、

妊婦さんはもちろん、産む直前の産婦さんにもおすすめしていました。

あかちゃんの頭が見え隠れしてきたような時期に

おまたを温めてあげると、

陣痛が緩和され、産道の筋肉がゆるみ、

産後の出血が少なくなる、という効果がありました。

 

毎月の生理のたび、痛みがひどくて

救急車を呼んでいたような30代のある女性は、

毎朝、ゆでたこんにゃくをジップロックにいれて、

車通勤の際に服の上からおなかをあたためていました。

 

その方は、パソコン業務中心のデスクワークだったため、

勤務中もおなかをあたためながら働いて、

お昼の休憩時間にまたあたため直してと、

寝ている時も働いている時も、一日中あたためていたら、

一か月くらいで救急車を呼ぶことはなくなったそうです。

 

お灸もよく効くのですが、火を使いますし、

煙が出るので部屋に臭いがついたり、

ツボを覚えるのが難しいといわれたり。

足湯は、お湯を運ぶのが重たいし、

片づけるのが面倒臭いということも……。

 

でも、こんにゃく湿布なら寝たままでもできます。

一度使ったこんにゃくは、使い終わったあと、

水を入れたタッパーに入れて冷蔵庫に入れておけば、

2~3回は繰り返し使えます(くれぐれも食べないでください)。

 

おなかをあたためると

特にあたためてほしいのが「おなか」です。

 

おなかは、食べたものを消化・吸収して、

全身の血や肉に変える胃腸のある場所。

ふだん、いくらからだによいものを食べていても、

おなかが冷えて上手く働かなければ

よい栄養をつくることができません。

 

おなかが硬く冷えていると、

自分で病気を治そうとする力が弱くなります。

そういう方は、ケガも風邪も治りにくいですし、

たいてい眠りが浅く、メンタルも不安定です。

 

胃腸の調子が悪くない人でも、

たとえば足を捻挫したとき、おなかをあたためて眠ると

とても回復が早いです。

おなかをあたためると神経が鎮静化し、筋肉がゆるんで、

全身の細胞の再生や修復を促す副交感神経がよく働くため、

ケガや疲労の回復を促します。

 

自律神経とは、交感神経と副交感神経から成り立っています。

 

交感神経の働きは、「怒っている猫」を想像してください。

毛が逆立ち、目は吊り上がって、頭に血が昇った状態です。

相手を攻撃するために全身の筋肉に力が入り、

食べ物を消化するためのエネルギーを極力抑えるため、

内臓にはほとんど血流が行き渡りません。

 

一方、副交感神経は「眠る直前のウトウトしている猫」。

毛が寝て、筋肉がゆるみ、表情もトローンとしています。

副交感神経が優位になると、胃腸や内臓への血流も増加します。

おなかや腰周辺の血流をよくすると、副交感神経の働きを促します。

 

ふだんから「怒った猫」、もしくは

「ライオンに狙われ続けて、いつも何かに追われ怯える子鹿」

のようにがんばり続けていると、自律神経のバランスが崩れてきます。

 

硬い子宮、やわらかい子宮

子宮は筋肉ですから、冷えはもちろん、

精神的な緊張や疲労などでも硬くなります。

 

わたしは10年以上、助産師として働いてきました。

お産のときは、「内診」と呼ばれる触診で、

子宮の状態を観察します。

 

ふだんの正常な子宮の位置は、

膣から指を入れても届くか届かないくらいの深いところ、

硬くぎゅっと閉じていて、後ろを向くような場所にあります。

お産が近づいてくると、まるで硬いつぼみが開いて花が咲くように、

やわらかく薄くなって、前を向いて下がってきます。

 

子宮が硬いとお産がなかなか進みません。

先ほど言ったように、冷えや緊張、怒り、不安、恐怖などで

交感神経が優位な状態だと、特に子宮は硬くなります。

同じ陣痛でも、子宮が硬いと痛みを強く感じます。

 

もともとの性格によっても陣痛の感じ方は違いますし、

誰だって初めてのお産はとても不安です。

慣れない産院、見知らぬ医療スタッフに囲まれ、

入院してすぐにリラックスできる人もいません。

 

子宮が硬くなったり、やわらかくなったりすることは、

妊娠していない人、生理がある若い人だけでなく、

更年期を過ぎた女性にも起こります。

 

「肝っ玉母ちゃん」とは、

肝臓(内臓)にしっかり血液が満たされて、

焦らず慌てず、周りを信頼して、肚が座っていて、

多少のことでは動じない女性のこと。

 

性格はなかなか簡単には治せませんが、

冷えとりしてからだをあたためることで、

こころの冷えをとっていくことは可能です。

 

また、長くお風呂に入れない人は「せっかち」な人が多いです。

 

あれやこれやと何かに追われるように過ごしていて、

誰も「早くやれ」なんて言ってないのに、

いつも慌てていて落ち着きがない。

お茶すらゆっくり座って飲めない。

ご飯をゆっくり噛んで食べないから、

胃腸も悪くて、肚でなくて頭に血が昇りやすい。

 

そういう人が半身浴を30分でもできるようになると、

本当に顔つきもことば遣いも、人生も変わってきます。

 
 

加藤祐里

かとう・ゆり|愛知県出身。年間1,000件以上のお産のある総合病院にて、助産師として務めたのち、東洋医学を学びはじめる。鍼灸マッサージ専門学校卒業後、結婚、出産、FMT自然整体の勉強、ふたたびの助産師としての勤務を経て、2012年4月、「自然の豊かな場所で子育てをしたい」という思いから、岐阜県郡上八幡へ移住。移住と同時に、自宅にて「郡上もりのこ鍼灸院」を開く。地元を中心にした多くの人々の健康相談にのっている。

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