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リレー・エコ連載

更新日 2009/7/31

エコ・リレー連載 murmur学園 エコ部!/「エコ部!」では、今さら人に聞けないエコの「きほんのき」から、エコにまつわる、かわいくてちょっとしたアイデアを、各界の方々にご紹介いただきます。部活の先輩に教わるように、甘酸っぱい気分で、学んでいきましょう!

エコ連載は第9回目、と自然に始めてしまいましたが、たいへんごぶさたしてしまい申し訳ありませんでした。久しぶりの今回は、エコなミュージシャンの方のご登場です!
「〜頑張ってる君のこと〜ちゃんと分かってあげたいから、君のためのふんふんふ〜ん♪」
あの軽自動車のCMでのやさしい歌声でおなじみ、シンガーソングライターのHARCOさんです。今年6月に最新アルバム『tobiuo piano』をリリース。現在も全国ツアー中のHARCOさん。実は半年に一回のペースで「きこえる・シンポジウム」というエコイベントを主催されています。
エコとの向き合い方について、ミュージシャンの立場からお話いただきます。HARCO先輩! よろしくお願いします。

第9回:HARCOさん/いつか辿り着けるはず、風力だけで暮らす街

風のエネルギーに思いをはせて

僕の新しいアルバム『tobiuo piano』のなかに「風力発電の街」という曲がある。夜空の下、風が少しずつ吹き荒れた頃にようやく灯りがつく、小さな街。風が吹かない日は真っ暗というわけだ。もちろん、そんな日は冷蔵庫もエアコンも使えない。

そこまで極端で不器用な街はきっとどこにもないだろう。しかしこの歌は、僕があるときエコロジーに強く興味を持つようになって、自然エネルギーの存在を知り、日本各地の風車をいくつか旅した結果、生まれたのだ。

海から吹く風、山から吹き下ろす風、谷あいからの上昇気流。風向きを探知して自在に向きを変え、風車はまわる。忙しそうなときもあるし、悠々としながら足もとの僕に挨拶を交わしてくれるときもある。そこにコンセントがあれば、僕は迷わず楽器をつないで音をかき鳴らしただろう。

お客さんと一緒に考えるエコイベント

そもそもエコについて気になり始めたきっかけは何かというと、2つある。いっこうに減らない家のゴミについて辟易していた自分に、なにか解決策をくれる気がしたこと。それと、数年前から登り始めた山の、健全なサイクルについて考え始めたこと。やがて、地の果てがそうであるように、すべてがどこかで繋がっていて、それはたった2文字の「エコ」という言葉になっていく。しかしそう気づいたときは、誰もがその言葉の頻度に辟易するくらい、浸透しすぎていた。

エコの本来の有用性をじっくり確かめたい。そういう思いで、「きこえる・シンポジウム」という音楽とエコのイベントを2年前から全国各地で行っている。1回目のステージにはミュージシャンだけが上がり、大きなテーマにやや体当たりすぎる感があったが、その次からは環境問題の専門家の方々を呼ぶようになって、僕らもお客さんも一緒になって疑問を解決し、頷けることが多くなってきたように思う。

自然のエネルギーだけでもCDはできる

ちなみに『tobiuo piano』はグリーン電力証書を使い、普段使用している電気の料金とは別のお金を自然エネルギーの機関に投資する形で、レコーディング、CDプレス、ジャケット制作に関わる電力の100%を風力発電を使用したとみなす、という証明をしてもらっている。いわば「風力発電のCD」である。

そんな再生可能でCO2排出量の少ない風車も、平地の少ない日本では建てられる場所も限られ、そろそろ頭打ちの気配であるらしい。洋上に大規模な風力発電を繰り広げているデンマークなどの国もあるが、費用も相当なものだろう。

茨城県神栖市。海岸にそって12基の風車が連なる。

茨城県神栖市。海岸にそって12基の風車が連なる。

いつも風車の下でライブをしたいと言っているのだが、それより先に、同じく再生可能な太陽光発電のパネルの下で、今年の春にライブをさせてもらった。このエネルギーでCDをつくれば「太陽光発電のCD」ができる。「バイオマス発電のCD」だって可能だ。証書を使わずに、スタジオや工場などの各施設がすべて自然エネルギーを直接取り込めるようになれば、もっと純度の高いものがつくれる。

CD自体はポリカーボネートという石油由来のものなのだが、とうもろこし由来の素材によるCDが実験段階ではできているというのも聞いた。飽きたら土に埋められるし、もしかしたら食べられるかもしれない。「このまえのアルバムどうだった?」「食べました」、それもむなしいが(近い将来、メディアの存在しない音楽配信に完全に取って変わる可能性も)。

音楽家になった僕の、もうひとつの夢

今年の夏、「きこえる・シンポジウム」のゲストに来てくれた環境コンサルトのペオ・エクベリさんは、自身のコラムで語っている。「子どもに夢をもつことが大事と語るように、大人も常に夢をもつことが必要だ」

そう、僕には音楽家になるという夢がかつてあって、今はもうひとつの夢がある。レコーディングも、ライブも、ライブ会場に行くまでの移動も、音楽に関わるすべてのエネルギーを再生可能なものにすること。

こんなふうにも言える。マイボトルやマイバッグを使っているのは、その夢について考える力を蓄えるため。エコイベントで照明やPA機器の電源を途中から落としてしまうのは、あの街の風のない日を感じるためなのだと。

きこえる・シンポジウム

東広島のDINNG CAFE LégumeにてQuinka,with a Yawnと。
キャンドルナイトに合わせ年に2回行う「きこえる・シンポジウム」では、毎回ラストの辺りで照明とPA機器をシャットダウン。

HARCO(ミュージシャン)
profile
〔HARCO(ハルコ)〕
青木慶則のソロ変名ユニット。97年よりHARCO(ハルコ)名義で活動開始。00年メジャーデビュー。05年、スズキアルトのCMソング『世界でいちばん頑張ってる君に』がスマッシュヒットしたのをはじめ、数多くのCM作品を手がける。07年にはベスト盤もリリース。純粋な音楽活動だけでなく、画家やデザイナーとのコラボレーション活動も数多い。近年はパートナーのQuinka,with a Yawnと、エコイベント「きこえる・シンポジウム」を主催。
tobiuo piano

『tobiuo piano』
(witz/POLYSTAR)
TOWER RECORD 限定発売

HARCOさんの最新作は、生ピアノを中心にしたアコースティックアルバム。本文にもあるように、制作工程で使われる電力をグリーン電力証書により、風力発電でまかなってつくられました。オリジナル曲をメインにカヴァーソングも含んだ充実の内容で、HARCOさんが紡ぐキャッチーな旋律とあたたかみのあるヴォーカルをじっくり堪能できます。