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リレー・エコ連載

更新日 2008/10/03

エコ・リレー連載 murmur学園 エコ部!第1回/「エコ部!」では、今さら人に聞けないエコの「きほんのき」から、エコにまつわる、かわいくてちょっとしたアイデアを、各界の方々にご紹介いただきます。部活の先輩に教わるように、甘酸っぱい気分で、学んでいきましょう!

前編に引き続き、アマゾンで植林保護の活動をしている長坂優さんのご登場です。地球環境を守るうえで、なぜ、アマゾンという土地が重要なのか。日本人は、アマゾンでどんなことをしてきたのか、しているのか――。「エコ」ということばを聞かない日はないなか、まだまだ知らないことがたくさんだと気づかされる、貴重なお話です。

2008年9月2日ベイクルーズ本社で行われた講演会と
マーマーマガジンによるインタビューより抜粋

第6回:アマゾンで木を植える 後編

アマゾンは、地球の肺

みなさんが知っている川は、必ず対岸が見えると思うのですが、アマゾン河の河口の幅は360km。日本でいうと東京から新潟をむすんだくらいの長さです。そう、ちょうど本州の幅がアマゾン河の河幅なんです。本州は海に囲まれた島ですが、アマゾン河はその本州の幅と同じ河幅で、その両側に、緑の大地が広がっているのを想像すれば、アマゾンがどれだけ広いか、ということが分かっていただけると思います。

その広大なアマゾンの緑が、地球上にある空気の約3分の1をつくっています。アマゾンが、“地球の肺”と呼ばれるゆえんです。この空気はジェット気流に乗って、世界の隅々まで運ばれます。ですから、みなさんが3回呼吸をしたうち、1回はアマゾンの空気を吸っている、ということになるんです。

さらに、地球上にある水のうち97%が海水、2%は北極と南極の氷で、残りの1%がみなさんが使っている真水と言われています。その1%の真水のうち、20%がアマゾン河から湧いています。

そんな地球の3分の1もの空気をつくる、貴重なアマゾンの自然はいま、ものすごい勢いで破壊されています。すでに全域の16%が自力再生不能の荒廃地となり、こうして話をしているあいだにも、1分間に29haずつ破壊されているのです。

1992年に、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議では、地球の財産として、アマゾンの緑を守ろうという、リオ宣言が出されました。ところが5年後、京都で開かれた会議では、アマゾンということばは出てこないまま、会議は終わり、次の南アフリカで行われた時も、アマゾンは忘れ去られました。

いまもなお、森は破壊され続けている

あまり知られていませんが、地球上で伐採された木の半分が、日本に運ばれています。日本は紙と木の文化を伝承してきましたから、毎日大量に紙や木、パルプでできたものを消費しています。

木材だけでなく、鉄鉱石は45%、アルミの原料になるボーキサイトは50%が日本へ運ばれるのです。この話を聞くと、企業や、商社が悪いと思いがちですが、その恩恵を受けているのはみなさんなのです。どのご家庭にもあるアルミサッシは、このボーキサイトが原料ですから。

また引き続き、おそろしいことも起こっています。

アマゾンの鉱山は、露天掘りという方法で掘られています。これは大カラジャス計画と呼ばれるものです。

内陸の鉱山から大西洋の港まで、1200kmの鉄道をひき、毎日160車両もの貨物列車が何往復もして、鉱物を運び出し、輸出しています。ところが道路と鉄道ができると、10年間で30kmの幅の、自然が破壊されてしまうのです。工場ができれば、当然電力が必要になり、アマゾン河の支流に、ダムと水力発電所がつくられました。その人造湖は日本の琵琶湖より大きい湖になっています。当然、緑は湖の底に沈んで枯れています。このような自然破壊が加速的に進めば、地球が温暖化していく速度もどんどん速くなってしまいます。

1人5本、木を植える意味

わたしは1990年に植林活動をはじめました。最初は1人1本の木を植えて、自分の空気は自分の木からつくってもらおうという活動でした(地球人一人一本植林運動)。しかし、これでは間に合わないことに気づき、いまは1人5本植えるように提唱しています。

1本は毎日吸っている自分の空気のため。2本めは住んでいる家、家具のため。3本めは、紙やパルプでできている日用品のため。4本めは子ども、孫の世代のために。そして最後の1本は、木を植えることができない、貧しい方たちのために植えるのです。この5本の木を漢字にすると、「森林」という言葉になります。1人5本の植林をみなさまに、ぜひお願いしたいと思っています。

1回目の植林直後の様子。樹種は、テッカ種(チーク樹)だそうです。2〜3年で10mとなり、15〜20年で直径40cmにもなるのだとか。









1回目の植林直後の様子。樹種は、テッカ種(チーク樹)だそうです。2〜3年で10mとなり、15〜20年で直径40cmにもなるのだとか。

大自然と向き合って

アマゾンで生活して、自然と対峙し、実にさまざまな体験をしてきました。いまはもう見ることはできませんが、原始林に入植してすぐに、体長10mくらいのアナコンダに出合ったこともあります。

伐採に疲れて、座れる場所を探していたら、ちょうど手頃な木が倒れていました。その木に座ろうと5mほどまで近づくと、木がとつぜん動き出したのです。わたしはあまりに驚いて、しりもちをつきました。そしてわたしのたてた音に気がついたアナコンダは、遥かかなたで首を持ち上げ、あの小さい目で、わたしをじっとにらみつけました。わたしは腰がぬけてしまい、その場から動くことができませんでした。わたしはカエルやネズミといった小動物のようになってしまい、その場に立ちすくんでただただ、おしっこをたれ流していました。

固まった状態で、人間が意思表示できるのは目だけですから、蛇の目に、負けてなるかとにらみつけました。どれくらい時間がたったでしょうか。アナコンダの目が一瞬細くなったと感じました。すると何ごともなかったように森の奥に消えてくれました。“目は口ほどにものを言う”と言いますが、言葉をしゃべらない野生動物でさえ、目を見れば、襲ってくるか、逃げていくか分かるのです。

目に見えないものの大切さ

大切なものは、目に見えないのではないか。わたしは、アマゾンで暮らすなかで、そう考えるようになりました。

まずは、時間です。どんなに過酷な体験も、時間が、その傷を癒してくれます。時間は目に見えません。

電気はどうでしょうか。うちに電気が通ったのは、つい20年前のことですが、いくら電球があっても、冷蔵庫をもっていても、電気が流れてこなければ、電化製品は使えません。この電気も、目で見ることはできません。

わたしが、原始林のなかで孤独と闘っていたとき、救ってくれたのはわたしの声でした。孤独で気がおかしくなりそうになると、辞書を黙読するのではなく、音読して、こころを落ち着けました。この声も目には見えません。

アマゾンの緑のなかで味わった空気、木を数本倒して見えた時の太陽の光、そして、みなさんが一人ひとりもっているこころ。すべて、これらは目に見えません。
人間にとって、本当に大切なものは、目に見えないものだということを、わたしはアマゾンから教わったのです。

これまでに植林した150haという広さは、地球全体で言えば、砂漠に針をたてたぐらいです。そしてその効果も、針に糸を通すぐらいのものですが、でも、誰かがはじめなければ、このすばらしい地球は救えません。

ぜひ、みなさんのご協力をいただければと思っています。

1990年に植林した場所
今年9月に行われた、長坂さんの講演の様子。アマゾンの自然のすさまじさ、自然破壊のひどさ……、ぐいぐいとお話に引き込まれました。


長坂優
profile
〔ながさか まさる〕
1940年、愛知県岡崎市生まれ、静岡県清水市(現・静岡市)育ち。1965年に東京農業大学を卒業と同時にアマゾンに移住。1990年にアマゾニア森林保護植林協会会長となり植林を開始する。現在も自称“アマゾンの百姓”として農業を営むかたわら、日本で講演活動を行っている。
アマゾニア森林保護植林協会
日本事務局
エス・エルワールド(株)社内
TEL  054-335-5451
FAX 054−335-5456