土曜更新
うた・こえ・からだをひらく
感応閑話
第3回 うたからうたづきあいへ

とーんびとーんび まいまいしょ とんびがまったらひがよかろ ひがよかろ
大空に舞うとんびは、羽をはばたかせることなく、文字どおり舞うように空を旋回しては、かなたに消えてゆきます。そのきもちよさそうな飛翔は見ていてあきることがありません。このうたに出会ったとき、谷が深く空がせまい郡上の里で、空の高さ、広さを教えてくれたのは、とんびだったとあらためて気づかされたのでした。
それから幾度、「とんびとんび」をうたってきたことでしょう。親子わらべうたの会でも、このうたは、テーマソングであり続けています。こどもたちは、道行きの木の実や虫によく気がつく一方で、空の鳥や飛行機、昼のお月さまや流れ星にも実に早く気がつきます。そして、とんびのうたをうたっているうちに、実際にとんびが飛んでくることがしばしばあるのです。私たちは親子のしばりを越えて、とんびと一緒に飛んでいる気持ちになったものでした。
あるとき、このうたを聞いてくださった方からメッセージが届いたことがありました。自分が幼い頃、祖父に川に連れられていったとき、このうたを何度もうたってもらった記憶が蘇ったというのです。そして、私がうたうのを聞くまで、それは祖父が口ずさみに作ったうただと思いこんでいた、と。その方の興奮が、ひしひしと伝わってきました。人、家族からなんとなく聞いていたうたが、土地のうただったのだ、という体験はかけがえがないものです。
本連載第1回で紹介したうた「ひがひがさいとくれ」にも事件がありました。当時、ところかまわず郡上でわらべうたを紹介していたとき、あるお祖父さんが座っていた席から突如立ち上がって「おまん、なんでそのうたを知っとるんや!」と叫ぶように問うてきたのです。
ご高齢のその方も、かつては川ガキ(郡上の川であそびなれたこどもたちを指していう総称)としてうたってきた代表的な曲を、よそものの私が知っているばかりか、当時の情景が一気にフラッシュバックして驚いたことを伝えてくれました。それからというもの、この方は会うたびに幼馴染みのように接してくださるのでした。
その土地とのつながりをより深く求める気持ちは、どこからきたものでしょうか。内から湧き出づる声は、この世界のどのような兆し、呼びかけにこたえたものでしょうか。うたを上手い、下手でとらえずに、わらべうたのように感応しあうメディアとして育むことができたなら、失われたかに思える時間、自分自身や世界とのつながりをとりもどすことができることを、この二つのできごとは教えてくれているような気がします。
そういう体験が折り重なってゆくたびに、私は自分がこどもの頃にこの土地固有のわらべうたで育っていないにも関わらず、伝え続けることの大切さが身にしみていくようになりました。
そうして、わらべうたを覚えている方がまだいないだろうかと聞き取りを続けるなかで、初めてお会いするにも関わらず、うたで会話をすることができる、うたが人と人の関係性をひらかせてゆく「うたづきあい」があるのだと感じるようになったのです。
おーひーさーま さいとくれ おふねのかげで とーんびがなくで ぴーひょろろー ぴーひょろろー
これは当時聞き取りをしていた80代の方々よりもぐっと若い、60代の仲良しだった3人の女性たちから聞いたものです。「ひがひが」と「とんび」を合わせたよう。美濃・飛騨・越前にまたがる地域ではいくつもの「とんびのうた」のバリエーションがあったようですが、鳴き声が入っているのは初めてでしたので、かつてのこどもたちのアレンジなのか、心がたかぶったものです。
そして、女性たちは、おふねのかげでとんびが鳴いていたのを見たわけではありませんでした。ふねのかげでないていたのは、とんびではなくこども、あるいは私自身だった、そんなトランスもうたっているうちに感じられてもくるのです。
一方で、『本当は恐ろしいグリム童話』ではないけれど、親や大人だったらそんなうたをわざわざ伝えないような、眉をひそめるようなわらべうたもあるのです。次回はそちらも紹介したいと思います。

1983年香川県生まれ、トランス・ナヴィゲーター。3児の父。幼少より郷土芸能に親しみ、日本各地の神事芸能や現代舞台芸術に足を運ぶ。2010年より岐阜県郡上を拠点に、わらべうた、作業唄、踊り唄、祝い唄の採集と伝承をライフワークとし、民謡バンド「GUNSOKAI」として活動。2020年より、声・うた・からだの探究と感応を促す「トランスワーク」を開発、各地でWSを開催。近年は、山伏修行もつとめ「山伏鵺(ぬえ)神楽」などの創造的奉納に励む。「源流遊行」(長良川カンパニー)、クラフトアパレル「ODORIGI」など、土地と人の関係をとらえなおす企画やメディア編集、ブランディングも行う。2025年5月に編集長として制作したzine『源流遊行MANUAL』vol.1を発行。
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