うた・こえ・からだをひらく
感応閑話
第2回 わらべうたが生まれるところ

あーめあーめふーるーな 雪はどんどんふーらっせ あーめはみやこへかえらっせ(郡上)
郡上で10年近く「親子わらべうたの会」を続けていました。毎月1回、雨でも雪でも、親子で散歩しながら、野外でわらべうたをうたって覚えていく、というサークルです。それくらいたくさんのわらべうたが郡上に残っていたのです。
今は岐阜市でやっているのですが、これまで誰しもに、「わらべうたって童謡(どうよう)のことですか?」と聞かれたり、わらべうたはお年寄りがうたうもの、というイメージが持たれていました。
まず、童謡というのは、明治時代に入って、それまであった日本のわらべうたをソースとして、西洋音楽の平均律(ドレミ)をつかって編曲・創作されたもの。だから、わらべうたは、作者不明の詠み人知らず、方言まじりのご当地ソングです。一方、童謡には不明のものもありますが、作曲者や作詞者がいて、当時から教科書やラジオといったメディアにのせるために標準語によるスタンダードナンバーになっていきます。
雪やこんこ 霰やこんこ 降つては降つては ずんずん積もる
山も野原も 綿帽子かぶり 枯木残らず 花が咲く (作詞:武笠三)
さらに両者の違いは、こうした自然の歌をうたってみるとよく分かります。わらべうたには、自然への呼びかけがあります。自然と会話ができるということをつゆほども疑っていないこどもたちの、ことばと音が自然から即はねかえってくるような応答の世界です。
童謡となると、景色を眺めて味わい、描写している大人の眼差しが豊かになります。ゆえに歳をとってから聞くと、こどものころの懐かしさを、目に浮かぶ風景として堪能できるのでしょう。コンサートやカラオケで喜ばれるゆえんです。
散歩をしながら私がわらべうたをうたうとき、他の親たちは初めて聞くそのうたを覚えるために、反復してうたい返します。そのとき、こどもたちは決してうたいません。年齢は、あかちゃんから、小学校に上がる前の6歳までがほとんどです。よちよち歩いたり、木の葉をひろったり、おもいおもいに駆け回っています。私の声が大きすぎて、耳をふさぐ子もいます。
ところが、家に帰ってお風呂に入ったり、台所で料理をはじめたりするときに、突然我が子が日中にふれたわらべうたをうたいだすことがあります。なぜ一度もその場でうたわなかった子が、ずいぶん時間もたつのにうたうことができるのだろうか、と親は驚きます。大人はもうすっかり忘れているからです。
からだの伝承はこのように起きるのだと思います。私たちは、ずいぶんと考え、意味をつかんで、覚えようとする訓練をしてきました。ところがそれは、からだでつかんだものではなかったようです。こどもたちは、まずからだで感じ、からだで覚えてしまうのです。
こどもの成長にしたがって、わらべうたは、お手玉やおしくらまんじゅう、だるまさんがころんだなど、からだの遊びと一緒になって、うたい囃(はや)されてもいきます。遊びうたであれ、自然のうたであれ、こどもたちがうたうわらべうたの、とてつもないエネルギーの開放はかがやくばかりです。私はまったくかないません。
それは、童謡・唱歌が生み出した合唱の美学とはまるで違うものです。生まれたばかりの、野生の、まだ自然の側にいる生き物たちの叫びです。なるほど、こどもがうたってこそのわらべうた、こどもが生み出したのが、わらべうたなのだと感じ入ったものです。
そういう意味では、こどもとこどもの間で流行する様々な現代の歌・ことばもまた、わらべうたになることがあります。いまだに私たちが聞く「おーねーがい」「あーそーぼ」なども、音化されたことばであり、わらべうたの卵といえるでしょう。遊ぶこどもたちの声・ことばに出会ったら、ぜひ、うたとして聞いてみてほしいものです。

1983年香川県生まれ、トランス・ナヴィゲーター。3児の父。幼少より郷土芸能に親しみ、日本各地の神事芸能や現代舞台芸術に足を運ぶ。2010年より岐阜県郡上を拠点に、わらべうた、作業唄、踊り唄、祝い唄の採集と伝承をライフワークとし、民謡バンド「GUNSOKAI」として活動。2020年より、声・うた・からだの探究と感応を促す「トランスワーク」を開発、各地でWSを開催。近年は、山伏修行もつとめ「山伏鵺(ぬえ)神楽」などの創造的奉納に励む。「源流遊行」(長良川カンパニー)、クラフトアパレル「ODORIGI」など、土地と人の関係をとらえなおす企画やメディア編集、ブランディングも行う。2025年5月に編集長として制作したzine『源流遊行MANUAL』vol.1を発行。
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源流遊行HP https://genryu-yugyo.com
