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Special Issue 別マー特集

更新日 2010/03/12

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自分だけのシャングリラを見つけるのだ

 街で暮らしていると、ときどき息がつまりそうになるときがある。そんなときは、どこか近くの山や森へいき、地球の上に眠るといい。「自然」が体に染みてきて、こころも体も元気になる。野宿なんて怖いと思う人は、ボーイフレンドを連れだそう。遠い原野や秘境へいかなくても、地球のエネルギーを感じることはできる。シャングリラは、案外近くにあるんだよ。

 たとえば、ぼくのシャングリラのひとつは東京都の西端、奥多摩にある。ある晴れた午後に奥多摩駅からバスに乗り、終点で降りる。小さな古い神社の裏から伸びる登山道を辿り、二時間ほど歩く。すると山の中腹にブナの巨木が現れるから、すこし離れた場所にテントを張る。

 まずは思いきりのびをして、ゆっくり夕食の準備に取りかかる。『高田渡』を聴きながらちびちび飲んで、夕食が終わる頃には日が暮れて、もう、すっかりいい気分。

 いつのまにか月が高く昇ってきた。ぼくはあたりをうろついて、湿った夜の大気を吸う。森には暗闇が満ちているけれど、怖くなんかない。ゆっくり気を落ち着かせてみれば闇が優しくあたりを包んでくれていることがわかる。怖いのは闇ではなく、自分のこころなんだ。

 寝袋に入って耳をすますと、いろんな音が聴こえてくる。遠くでフクロウがホーホーと鳴き、木立をシカの群れがヒタヒタと通り過ぎてゆく。低音に森を吹き抜ける風の音。中音に遠くで流れる川の音。ときおり高音をかすめていく、木々が風に揺れる音。ああ、これぞ地球の音。いのちが循環している響き……zzz。

 そうして朝の冷気と鳥のさえずりに目を覚ませば、もう、人生に何の不平も不満もない。

 もう一度いうけれど、シャングリラは案外近くにある。それを知らないでいるのは、すごくもったいないと思うのだけれど。

プロフィール

[みた まさあき]

1974年、東京生まれのフォトグラファー、ライター。パーティ・カルチャーや山にまつわるトラベル・フォトストーリーを数多く雑誌などに発表している。


地球の上に眠るには
シャングリラの見つけ方
野宿をしたことのない人は、まずは麓のキャンプ場から始めてみるのも手。でも、車じゃいけない場所にこそシャングリラはある! まずは家の近くの山域の『山と高原地図』(昭文社)を手に入れて、ハイキングから始めてみて。「こんな場所に眠りたい」という場所が、きっと見つかります。「眠る」にはあまり人のこない地味でマイナーな山がおすすめです。(一般に国定公園内では指定地以外の幕営は禁止されています。詳しくは各山域の自治体のウェブ等で確認してください)
地球の上に眠る道具
テントは登山用の軽量コンパクトなものを。背負うことを考えると、二人用で二キロ以下が望ましい。キャンピングマットは安い銀マットでいいから絶対に持っていくこと。寝袋は少々値が張っても良いものを。0℃〜5℃対応のものがおすすめ。キャンプ道具をすべて入れるなら、バックパックは最低でも五〇リッターは必要。
野宿って怖くないの?
野宿なんて怖い! と思う人も多いかもしれない。けれど地味な低山には夜ほぼ人がいないし、都会の夜道をひとりで歩く方がよっぽど危険だと思う。とはいえ、余計な気苦労をしないために、他人のいない場所に泊まるのが理想的。その方が気持ちいいし。
Leave No Trace!
いくら幕営が禁止されていなくても、植生を傷つける場所にテントを張るのは論外。また登山道の上や山頂に堂々と張るのも考えもの。どうしても目立つ場所に張りたい場合は早発ちが基本。そして痕跡は残さぬこと。自然に対しても他人に対してもそれがマナーです。

詳しくは「別冊マーマーマガジン」内の連載「別マー登山部」も参照してみてください。どうぞ!