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Special Issue 別マー特集

更新日 2009/04/10

murmur magazine vol.4 創刊1周年記念特集!本誌まるごとダイジェスト

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エッセイスト 上遠恵子さんに聞いたレイチェル・カーソンのこと 子どもと自然編

最新号のインタビューは、レイチェル・カーソン研究の第一人者・上遠恵子さん。レイチェル・カーソンは1960年代に、『沈黙の春』を書き、果敢にも農薬や化学物質の危険性を指摘した女性です。そんなレイチェルも子どものころ、たくさんの自然のなかでやわらかなこころを育みました。別マーの特集では、子どもと自然についてのお話を抜粋してお届けします。

上遠恵子さん お話してくれた上遠恵子さん
[かみとお・けいこ]
1929 年生まれ。エッセイスト、レイチェルカーソン日本協会会長。訳書として『センス・オブ・ワンダー』ほか多数。


「地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることはけっしてないでしょう。たとえ生活のなかで苦しみや心配ごとにであったとしても、かならずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たなよろこびへ通ずる小道を見つけだすことができると信じています」

レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』より抜粋

自然のなかで一人で過ごす
そんな時間を子どもにあげて

上遠さん(以下、上) 人生を生きていくうえで、幼児期の経験は本当に大切です。2歳から英会話を習うというより、どんなに小さな自然でもいいから、生きものやお花を育ててみるほうがずっといい。幼稚園や保育園の帰り道にある梅の木を毎日観察するだけでもいい。親子一緒に自然のものに関わると、コミュニケーションもとれるようになるんですよね。自然が仲立ちになってくれる。

服部(以下、は) でも、どうしても知的に早く発達させようという親御さんも多いですよね。

(上) 以前、どこかの幼稚園で、あるおかあさんから「自然を体験したら、どんないいことがあるのでしょうか?」と質問されたことがあったんです。

(は) (笑)。

(上) わたしは絶句しちゃって、逆に「いいことってどんなことですか?」って聞いたんですけれど、はっきりとした答えは得られませんでした。自然のなかであそんだからって、翌日には聞きわけのよい子になっているとか、何かがすぐに上手になるということはないのだけれど、でもその子にとっての本当の結果って長い時間かけないと出ないものだと思います。

(は) 本当に、そうですね。でも焦ってしまう。

(上) みなさん、結果を早く求めすぎるのよね。子どもを育てるのは、100円玉入れてジュースがボトンと出てくる自動販売機のようなものではない。大事にしていた虫が死んで悲しい思いをする。そこで「死」というものを、やわらかなこころで体験する。そういうことが大切です。レイチェル・カーソンは、そういうことを小さなころ、たくさん体験したんじゃないかと思うのです。

(は) レイチェルが書いた本『センス・オブ・ワンダー』にも「寝る時間がおそくなるからとか、服がぬれて着替えをしなければならないとか、じゅうたんを泥んこにするからといった理由で、ふつうの親たちが子どもから取りあげてしまう楽しみを、わたしたち家族はロジャーにゆるしていましたし、ともに分かち合っていました」って。現代は逆の場合が多いですね。

(上) 子どもって、ひとりで蟻を観察したり、ダンゴムシとあそんだりしているときに、いろいろなことを考えているらしいんです。
 わたしも、甥を育てたのですが、虫を観ていた彼に、「何を考えていたの?」と聞いたら、「いろんなお話を考えていた。すごくおもしろかった」って。自然のなかにいるとクリエーション(創造力)とイマジネーション(想像力)がおのずと育っていくのね。子どもが自然のなかで一人いる時間というのを大事にしてあげたいですよね。「汚い」なんて口出ししないで、ね。どうせ子どものほうから「ねえ、ねえ」って寄ってくるのだから、それまで大人は、ただ見ていてあげる。そんな忍耐力があるといいですね。

(は) ちなみに、子育てしている方やこれから子育てをするという方に、『センス・オブ・ワンダー』は本当に、おすすめですよね。子どもと自然のなかに出かけたくなる本。

(上) そうですね。ぜひ読んでみていただきたいですね。

続きと、レイチェル・カーソンについての詳しいインタビューは、本誌へどうぞ

[れいちぇる・かーそん]
Rachel Louise Carson

1907年アメリカ生まれ。海洋生物学者、作家。62年、自然破壊に警告を発した先駆書『沈黙の春』を発表。64年永眠。

本の紹介 『レイチェル・カーソン』

レイチェルの生涯について知りたいひとに。写真も多く、簡単に読める。『レイチェル・カーソン』(ジンジャー・ワズワース=著 上遠恵子=訳 偕成社=刊)

『沈黙の春』

農薬をはじめとする化学物質の危険性を60年代にはじめて指摘した告発の書。エコロジー運動の原点ともいえるべき本。『沈黙の春』(レイチェル・カーソン=著 青樹簗一=訳 新潮文庫)

『センス・オブ・ワンダー』

自然の神秘に目をみはる感性を。初心者の方はぜひ。『センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン=著 上遠恵子=訳 新潮社=刊)


写真 竹内勝(aotearoa)