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岡本よりたかさんインタビューこぼれ話

岡本よりたかさんインタビューこぼれ話
種苗法改正にアンテナを張っておきたいわけ

 

『マーマーマガジン フォーメン』第4号でご紹介した、岡本よりたかさんのインタビュー。「主要農作物種子法」がなくなったことについては、一般の人々には問題がないことはわかりましたが、「種苗法」の改正については、ぜひ見張っておきたい、と岡本さん。もう少しくわしくお話をうかがいましたので、ぜひ、ご注目ください。

 

 

種苗法改正の動きについて

 

岡本よりたかさん(以下敬称略 よ) 「主要農作物種子法」は行政法だから一般の人々には関係がないんですけれど、実はあの法律がなくなることによって、抵抗勢力がものすごく抵抗したんですね。

服部みれい(以下 み)はい。

よ 抵抗したあとに農林水産省が何をしたかというと、「種苗法」という知的財産法があるんですが、その法律の改正をいいはじめたのです。昔、日本のイチゴが韓国で勝手に育てられた話聞いたことありませんか?

み あります。

よ 日本の品種を韓国にもっていって、韓国でつくって、日本に逆輸入して売った。でも、これ、法律で取り締まれなかったんです。知的財産権の侵害には値しないとなった(編集部註:当時、韓国はUPOV条約が本施行されていなかったため。現在は国内の法律が改正し対処されるようになった)。こういうことは実は世界中で起きていて、世界各地で問題になってきているんです。

み そうなんですね!

よ 実は、かつてフランスで、作物の知的財産権を守るための条約をつくりましょうという動きがありました。その結果UPOV(ユポフ)条約(編集部註:植物の新品種の保護に関する国際条約)が1961年に採択されたのですが、日本はずっと締結してこなかったんです。その後、1982年に締結。そのイチゴの事件をきっかけに、その条約に従って国内法も変えようということになった。

み なるほど……。

よ 実は世界中、各国で、UPOV条約に合わせて国内法を変えてきているんです。それがよくいわれる、いわゆる「モンサント法」なんです。このUPOV条約の中に、知的財産権のある種について「農民の自家増殖を原則として禁止する」とある。

み なるほど。これに、「反応」していたわけですね。

よ はい。知的財産権の与えられた品種に関しては、農家の自家採種じゃなくて自家増殖という方法もあるんですね。

み 自家増殖?

よ 種を採取して次の作物をつくる方法(種子繁殖)以外に、茎や葉っぱや根っこで増やしていく栄養繁殖というものがある。その両方ともを禁止しようという流れがあります。UPOV条約に合わせるために、アメリカをはじめ諸外国では国内の自家増殖をすべて原則禁止にするという法律を各政府が立案した。それで農民たちが、巨大企業寄りの「モンサント法」だといって猛烈に反対したわけです。その流れで日本も、とうとう、自家増殖禁止という方向に向かうことにしたんです。これには抵抗勢力も納得するわけですよね。「各自治体の農業試験場がつくってできたものに対して自家増殖禁止」ということで、農林水産省は、(主要農作物種子法廃止の件は)それで勘弁してよ、と。でも、実は、日本の現行の「種苗法」では、自家採種は原則オッケーなんです。種を採る権利は誰のものでもない。種は誰かが権利をもつものでもないから、と。知的財産権が付いていようが付いてなかろうが、農民が種を採るのはあたりまえの権利であるという発想です。

み でも、UPOV条約を締結しているがために……。

よ そうですね。そっちに寄せようという流れができてしまった。もう一度まとめると、まずは、海外のバイオテクノロジー企業による日本の農業団体への圧力で「主要農作物種子法」が廃止となりました。結果、農業団体としては、自分たちの大事な牙城である米を乗っ取られるかもしれない。だから「何かほかに法律をつくって、俺たちの権利も守れ」ということになった。それで、「種苗法」を変えましょうとなったということです。

み そっか……、それで、自家採種を原則禁止にして、種は農業団体から毎年買わなければならないというシステムにしようということですね。

よ そうです。農業団体がそれで納得したため、今はそっちの方向にどんどん動きつつあります。日本の種苗法は、農家の採種権利を認めています。基本的には、種苗会社のための法律ですから、種苗会社を守るための法律なのですが、農家とのバランスもあるので、農家の採種権利を認めつつ、種苗会社の権利も守る。このふたつを両立させたよい法律だったんです。

しかし、農家より種苗会社のほうが絶大な力をもってしまったがために、法律も種苗会社寄りになっていこうとしているわけです。現状では、自家増殖は原則自由の立場であり、自家増殖の中でも、栄養繁殖の中の356品目だけ自家増殖を禁止していますが、これを逆転させて、自家増殖を原則禁止にして、種子繁殖や栄養繁殖の一部を自家増殖可能にするということです。

しかし、これは危険な発想です。なぜなら、この一部自家増殖可能な品種リストというのは、農水省のひと言で簡単に減らすことができるからです。農水省は、現場を鑑みながら決めるといっていますが、多くの農家では、すでに自家増殖はしなくなってきています。つまり、現場では自家増殖してないのだから、許可しなくてもよいだろうと、簡単に決まってしまいます。

もし、そうなったら、わずかに存在する自家増殖で生計を立てている農家は立ち行かなくなるのは目に見えています。しかも、今後、多くの農家がやっぱり自家増殖しようと思ってもできないわけですし、もっというと、種苗会社が種を売らないといい出したら、もう種は手に入らなくなります。自家増殖禁止なのですから。売らないまでも、値段を吊り上げてくる可能性はあります。それでも、買わなくては農業ができません。そんなに高くなるなら、自家増殖しようと思ってもできないのです。これは、インドなどで起きている種子支配の構図です。

種苗法は一般の方は関係ないと思っているようですが、食べものの安全は種から始まります。その種が病気を引き起こすかもしれない遺伝子組換え種子であっても、農家がそれしか手に入れられなかったら、遺伝子組換え作物しかつくれませんし、消費者は遺伝子組換え食品を食べるしかなくなるわけです。

だから、農家だけでなく、家庭菜園の方や、一般消費者であっても、この問題を素通りしては、絶対いけないのです。

み ぜひ、種採りにたくさんの方々が興味をもっていただき、種の交換会や、種の問題に関する映画上映会などにも足を運んでいただけたらと思います。読者の方々で種の交換会をされる方も増えてきました。わたしも、美濃のお店やウェブショップで固定種の種のご紹介をしたり、自分でも種採り、少しずつ挑戦していますが、これからも種の動きに注目していきたいと思います。お話、ありがとうございました!

 

 

【おかもと・よりたか】

「空水ビオファーム」農園主。農業スクールおよびシードバンクネットワーク「たねのがっこう」主宰。CMクリエイター、TVディレクター時代に取材を通して農薬、除草剤、肥料が環境にもたらす影響を知り、40代半ばで山梨県・八ヶ岳南麓にて、無農薬、無肥料、無除草剤、自家採種による農産物栽培をスタート。全国各地にて無肥料栽培についての講演およびセミナーや上映会等を開催。2018年より岐阜・郡上八幡在住。無肥料栽培セミナーのお申し込みについては、岡本よりたかさんのFacebookへ。

2019年4月6日には、名古屋にて、映画『たねと私の旅』(オーブ・ジルー=監督 2017年 カナダ・アメリカ・フランス)先行上映会あります。

https://www.facebook.com/events/789747771410567/

予告編はこちらから