Special Issue 別マー特集
更新日 2013/02/22
広田奈津子さん 映画『カンタ!ティモール』のこと もう少し
第2回 ふしぎな夢の話
映画『カンタ!ティモール』の監督、広田奈津子さんのインタビュー2回目は、
広田監督のこれからのお話、そして、広田監督が見たふしぎな夢のお話です。
はっと息をのむような、うつくしい夢のお話を、
マーマーガールのみなさんとぜひ共有したいと思い、ご紹介します。
では、さっそくどうぞ。
聞き手と文=服部みれい(本誌編集長) 取材協力=ささたくや イラスト=相馬章宏
背中を押す力に
━━『マーマーマガジン』では、おかげさまで2012年12月16日に、上映会を行うことができましたし、読者の方からもたくさん「観たよ!」という声を聞きます。これから観る方に監督から何かメッセージはありますか?
広田奈津子さん(以下、な):(服部)みれいさんがこの映画を観て「自分はまちがってなかったんだ」って思った、という話をしてくれましたよね。すごくうれしかった。今まで、みんなのからだや命が喜ぶことを続けてきた人たちが、そう思ってさらに力を感じてくれるとすごくうれしい。東ティモールの人たちがいのちをかけて表現したことが、みんなの背中を押す力のひとつになったら……。
━━なると思います。本当に大勢の人に観てほしい映画です。わたしもまた観たいですし! 映画の中の登場人物たちみんなが友だちみたいな感じがするんです。また会いに行きたい、みたいな。あと、奈津子さんのお話も本当にわかりやすくて、できるだけたくさんの方々に聞いてほしいです。奈津子さんは、また映画、撮ろうという計画はあったりするのですか?
な:実は、何にも先のことを考えていないんです。
━━そうですか。でも、奈津子さんが東ティモールに導かれていったこともそうだし、先のことどうしよう、こうしようって頭で考えるよりも、流れに乗ったほうがいいですよね。東ティモール以外で興味をもっていることはありますか?
な:興味があることはいっぱいあります! 南米も行きたいし、キリスト教の教会が入る前のヨーロッパのことや、ウィッカにも興味をもっています。最近はクリスマスを(本来の)冬至のお祭りとして祝ったり、夏至にストーンヘンジで日の出を拝むお祭りが開かれたりしてますよね。わたしもちゃんと暦を取り戻したい。
━━ウィッカに興味もっている人は多い気がする! 南米はどこに興味があるんですか?
な:ペルーや、アマゾンの森も行きたいですね。イルカと夫婦になる地域や、イルカと漁をする地域も行ってみたい。
━━わあ、すてき。またこれからも、いろんなことを奈津子さんの目を通して、わたしたちに教えてほしいです。
「忘れない」と鳥がいった
な:あと、今、わたしが前に夢で会った鳥の話を絵本にしようという企画がもち上がってるんです。2008年にドイツで開かれたCOP(コップ)9という世界会議に参加したんですが、その会議のテーマは生き物の絶滅を食い止めようということだったんですね。恐竜が絶滅した時代の4千万倍ものスピードで今、たくさんの種が死んでいっているというので、これを止めなきゃという。
そこで見た資料がこころに残ったんだと思うんですが、帰国してから夢を見たんですね。
わたしが川沿いを歩いていると、後ろから動物たちが走って来て、わたしを追い抜いていくんです。シカや、キツネや、いろんな生き物が。走り抜けて、そのまま空に吸い込まれて消えてしまうの。「あ、死んでいくんだ」と気づいて、わたしも泣きながら追いかけるんだけど、でも追いつかなくてひざをついてしまうんです。
そのときに大きな鳥が後ろから飛んで来て、わたしの目の前に降り立ったんです。そして飛び立とうとして羽根を広げたとき、羽根の向こうから夕陽があたって、オレンジとピンクの間みたいな色で、ものすごく美しくて。そのとき、その鳥がその種族の最後の1羽だってことがわかって、「ごめんなさい」ということばが口から出たんです。
そうしたらその鳥は、飛び立つ瞬間に、こちらを振り返って「忘れない」っていったんです。
「わたしは忘れない。あなたたち人間はわたしたちの声を歌おうとしたはじめての友だち。あなたたちはわたしたちの色を描こうとしたはじめての友だち。ときがすべての形を変えさせても、わたしは忘れない」といってくれて。そうして目が覚めたのですけれども。
そのことばがすごくうれしくて。「人間は破壊する存在じゃなくて、歌おうとした、描こうとした存在だ」っていってくれたの。それを友だちに話したら「その夢を絵本にしたい」といってくれて。
━━わー、すばらしい夢。その絵本ぜひぜひ、読みたいです。
な:ありがとう!
━━夢といえば、わたしも震災の直前にすごくきれいな夢を見たんですよ。詩集に書いたことがあるのですが(『甘い、甘い、甘くて甘い』に収録)、夢の中でね、目が覚めると自分が真っ裸で、水に浸かってるんです。首までしっかり水に浸かっているんです。
そして、パッと顔を上げると目の前がワーッと麦畑なの。わたしは河口っていうか、海につながるギリギリのところにいるのね。川と海の境。すごくおだやかなんです。水もそこに浸かっているだけで病気が治ってしまうような水だということがわかる。透明できれいなんですね。
その川がとても深くて、自分の足は水の中でちゅうぶらりん。岸辺にほおづえをついたような形で、水に浸かっているんです。で、そのまま後ろを振り返ると、川の向こうのほうにバーッとまた麦畑が広がってるんです。人間はわたししかいないんですけど、「ああ地球は助かった」って確かに思う夢でした。
人は減るけど、地球はこんなにもきれいになるんだって思った夢だったんです。
で、その後、大震災があってどうなるんだろうって思ったときに、その夢がわたしのこころの大きな支えになっていました。最終的に、地球は大丈夫だって。何の根拠もないのですが(笑)。でも、本当に、とってもきれいだったんです。水も、麦畑も何もかも。ひとりきりだけど、あまり寂しいとも思わなかったんですね。「よかった」って思いのほうが強くて。
な:この話、聞けてよかった。
━━だから人間の社会はこれから、ひょっとしたらいろんなことがあるかもしれないけど、でもちゃんときっときれいになる。時間はかかるかもしれないけど……。もともと地球の水も草木もあれぐらいきれいだったんだろうなとわかる夢でした。水も、どこへ行っても「ルルドの泉」みたいな聖水だったんじゃないかなと思ったり。
な:龍神さまがいてね。
━━ 一見「ファンタジーのような世界」と現代人は思ってしまうけれど、でももともと人間は「そういう世界」に住んでいたと思います。それが自然だったというか……。東ティモールの人々が、精霊とかシャーマニズムとかそういったものとも共存していることもとても勇気になりました。また、これからもいろいろなことを教えてください! このたびはありがとうございました。
な:こちらこそありがとうございました。
(第1回はこちら)
- 【ひろた・なつこ】
- 1979年、愛知県生まれ。2002年音楽交流を行う「環音」を立ち上げる。東ティモールの音楽ドキュメンタリー映画『カンタ!ティモール』製作を開始。同映画が初監督
※広田奈津子さんロングインタビュー「東ティモール 許すひとびとのはなし」は、本誌17号でご覧いただけます
※広田奈津子さんロングインタビュー「東ティモール 許すひとびとのはなし」は、
本誌17号でご覧いただけます