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Special Issue 別マー特集

更新日 2013/01/25

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広田奈津子さん 映画『カンタ!ティモール』のこと もう少し

第1回 東ティモールと日本のはなし

本誌17号でセックス特集と並び、大きな話題となっているのが、
映画『カンタ!ティモール』の監督、広田奈津子さんのインタビューです。
東ティモールのこと、映画のこぼれ話をもう少しだけ、お届けします!

聞き手と文=服部みれい(本誌編集長) 取材協力=ささたくや イラスト=相馬章宏

東ティモールと日本のはなし

━━今でも東ティモールにはよく行っていらっしゃるのですか?

広田奈津子さん(以下、な):定期的に行くという感じではなくて、「困っているから来て」と連絡が来たとか、用事ができたら行くという感じ(笑)。「おとうさんが手術するから来て」とか。

━━手紙がくるんですか?

な:今はメールが多いです。首都にインターネットカフェがあって、そこからたまに連絡が来たりするんです。

━━東ティモールのことばは東ティモールへ行って、何年かかけて覚えたのですか?

な:3か月間滞在したときに覚えました。最初は、英語の通訳をつけていたのですが、よく「妖怪が〜」なんていう話が出てきて……。

━━精霊が、とか(笑)。

な:そういったことばは、英語だとうまく訳せないと通訳の方にいわれて(笑)。日本語のほうが同じことばが見つかるというか……。それでもう覚えたほうがいいなと思って、勉強しました。

━━何語なんですか?

な:ファタルク語です。

━━それはポリネシア系のことばなんですか?

な:はい。マレー・ポリネシア語派といわれる、太平洋に広がることばのひとつですね。ティモール島も東のほうに行くと、ポリネシア系の影響が強いです。母音が多くて。

━━では、本当に日本語と近いのでは?

な:はい。発音が近いです。太平洋のことばですね。ふしぎな懐かしさを感じます。

━━本誌の15号でも特集したのですが、鈴虫の声など自然の音を左脳で聞いているのはポリネシア人と日本人だけなんだそうです。

な:まあ! おもしろい。

━━西欧人には、自然の音が雑音に聞こえるとか……。だから日本で、自然のことをうたう俳句などが発達したのではないかという説があります。自然の音をしっかり聞き分けられて、それがすてきだなと思えるわけですね。

な:おもしろーい。

東ティモールの人々の許すこころ

━━おもしろいですよね! だから東ティモールの人々の感覚は、本来は日本人にもあると思うんですよね

な:東ティモールには、ドラゴン伝説があるんです。日本やポリネシアにも似た伝説が多いですね。多くの国々ではクジラ、ワニ、サメ、ヘビ、トカゲといった生きものが大切な守り神なんですね。水源を護る水神さまであったり、先祖の神さまであったり。東ティモールの多くの村ではワニが先祖そのものであったり、先祖を救った神とされて、ワニのからだがティモール島になったといわれています。

あんまりくわしくないんですけれど、日本の「海幸彦山幸彦」の話でしたっけ。山幸彦の妻(海の神の娘)が子ども産むから見るなっていって産屋に閉じ込もるんだけど、山幸彦が見ちゃったら大ワニ(サメともいわれる)がもだえ苦しんで出産をしてたという話がありますよね。神武天皇はそのワニ母さんの孫にあたるとか。

東ティモールも「ワニ」を表すことばはあるのですが、誰もワニのことをワニって呼ばずに、「おばあちゃん」って呼ぶの(笑)。ワニのこと、ワニって呼ぶのはタブーなんです。で、泉から水をもらうときも、泉には(実物の)ワニがいて守っているから、「おばあちゃん、水もらうよ」っていいながらくむんです。

━━おもしろい! 物語みたい。最高ですね。

な:しかも、すごい話があって。その泉を守っていたワニというか、おばあちゃんが、インドネシア軍によって殺されてしまったそうなんです。村でとっても大切にしていた神さまだから、それは怒りますよね。

━━はい。悲しいし、怒ります。

な:わたしが「村の人はさぞ怒ったでしょう」といったら、彼らはこういったんです。「怒るのは神さまがやってくれる。わたしたちは、大切に葬った」。

━━ ……。すごい。映画でも描かれていた、インドネシア軍を撤退させ、独立をみずからの手で勝ちとった方法と共通点がありますね。その東ティモールと日本も、根本の部分では、共通点がたくさんある、ということが本当に勇気そのものであるし、そのことに本当に、目覚めていたいです。

な:世界最古の釣り針が東ティモールの洞窟に残っているそうです。4万2千年ほど前の大型マグロの骨と一緒に、貝でつくられた釣り針が出てきたんですって。大型マグロを捕ろうと思うと、遠洋に出なくてはいけない。東ティモールからマグロを追って黒潮に乗ったかもしれないですよね。
そうなると、日本のほうにも回ることになるんです。だから縄文の人たちはきっと太平洋の島々とも交流があったのではないでしょうか。縄文土器みたいな模様の土器がポリネシアのほうから出土したということも聞いたことがあります。そういう共通点が、ことばの世界にも残っているように思います。

第2回に続く)

プロフィール
【ひろた・なつこ】 
1979年、愛知県生まれ。2002年音楽交流を行う「環音」を立ち上げる。東ティモールの音楽ドキュメンタリー映画『カンタ!ティモール』製作を開始。同映画が初監督

※広田奈津子さんロングインタビュー「東ティモール 許すひとびとのはなし」は、本誌17号でご覧いただけます


※広田奈津子さんロングインタビュー「東ティモール 許すひとびとのはなし」は、
本誌17号でご覧いただけます