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新米社長福太郎便り

76 揺れる脚立、そして誰もいない

 

 

 

今日は一日中雨の美濃でした。

ですがすでに屋根が出来上がっている小屋では作業ができるので

壁作りをすこし進めました。

 

ほんとうは今年78歳になるぼくの父に、

今日の作業は丸投げしようと思ったのですが(ひどい話ですよね・・・)

作業の中には高さ4メートルほどまで登らなくてはいけないところもあり

「よし! わかった、やってみよう!」と意気揚々と小屋に

向かっていく父の後ろ姿を見ていたら・・・

罪悪感が芽生えてきました・・・

「このやりとりも庭さんに見られているとしたら・・・」という

打算的な思いもちらつきつつ

ちょっと気になって様子を覗いていたら

いきなり作業工程には必要ないはずのトンカチをどでかい音で

トントントン、カンッ!! と

やりだしたので、たまらず小屋まで駆けより

「ちょっと! 大丈夫!?」と心配したふりをして

一緒に作業を進めることにしたのです。

 

 

ちなみにぼくは子どもの頃、虫がつかめないけれど虫がすき、

そして高所恐怖症な子でした(今もそうですが)。

そして木の上のほうにいるカブトムシをどうしても虫かごに入れて観察したいときは

木登りが得意そうな友だちに

「お前、男だろ! 木ぐらい登れるだろう! 虫ぐらいとってみろよ!」と

言って友達を木によじ登らせて、カブトムシをとってもらい、

虫かごにいれてもらったうえで

「よしよし、この虫かごは俺のだから、俺のものだ」という

ほんとうに絵に描いたようないやな感じの子でした。

 

そしてそれなりにそのまま大人になったぼくは

その時、その時、そのいやな感じのジャイアン性を

周りに発揮してきたのでした。

しかし今や37歳にもなり、

周りからそのジャイアン性を受け入れてくる人が

ひとり、またひとりといなくなり・・・

ついぞ78歳の父にばかり発揮されるようになっている現状です!

(あっあとうちのスタッフのみなさんにも・・・あーおそろしや!)

 

 

話は戻ります。

その後順調に作業を進めていきました。

地面から近い場所はいいのですが、だんだんと脚立の上にあがっていき

最後のほうは、脚立をまっすぐに伸ばして、一本にして、

4メートル近くまで高い場所で作業をしなくてはいけなくなりました。

高所恐怖症が治っていない自分としては、

最後の最後まで

「お父さん、登らしちゃいなよ! いつものアレを発揮してさ!

いつもア・レ、得意だろ、うまいこといってやらしちゃいなよ」という

自分の中のいやな感じの声が、ぼくの背中を押し続けました・・・。

しかし

「78歳の父に登らせて、自分は地面で指示出しているってどうなの?」

という常識的な声と

「自分でやったら、小屋が完成した折には、『あの天井のところまで

壁を作ったのは、実はぼくなんだよ』と言える。それに庭さんも見ているぞ、

ここは信頼回復したほうがいいぞ、蚊に吸われなくなる」という

見栄や打算的な声が勝り

「おやじ、ここから上は俺ひとりで行くよ。危ないからさ」と

震える声を必死でおさえ

「あっでも絶対ちゃんと脚立おさえておいてね」と

情けないぐらいなんども念押しし

いざ上へ!

 

父親も器用なタイプではないので、

脚立をおさえる力が強すぎて、力をいれるたびにグラッとしたり、

工具の受け渡しのたびに脚立に体当たりして、

そのたびに心臓が飛び出るほどビクッとさせられたり、

想定外レベルで脚立は揺れたのでした。

心底クラっとしたのが

一番高い場所での最後の作業、

釘を打ち込み、、、作業完了!

感動のフィナーレ!

「終わったよ!」と

満面の笑みで下にいるはずの父親を見たら・・・

 

 

脚立をおさえているはずの父がいない!

というか誰も脚立おさえていない!

その光景には心底クラッとしました。

「笑顔が凍る」という表現はまさに

このときのぼくの顔のことをいうんだと思います。

 

父はというと脚立から離れた場所で

蚊にさされたのか、しきりに腕や足をボリボリかきながら

あたりをキョロキョロしているではありませんか!!

 

 

「うそでしょ!? 息子の安全より、蚊が気になるんかい!」と

一瞬怒りがわいてきましたが、

冷静に一歩、一歩下に降りて、

地面に無事着くと、安心したのか

「まぁ、ぼくが逆の立場でもそうしていたやろうな」と

あれこれ言うのはあきらめて

「じゃあお父さん、後片付けはよろしくね!」と

今日の小屋仕事を終えたのでした。

 

 

 

 

 

庭さん、今日のぼくの勇姿、見てくれていたかな。

 

 

(福太郎)