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マーマーなリレーエッセイ

#16 加藤祐里(郡上もりのこ鍼灸院・鍼灸師)

 

春にかけての養生法

 

今回のエッセイは、

第14回で「夏の養生」についてお話していただいた、

加藤祐里先生による「春にかけての養生法」です。

 

まだまだ寒さが続く2月ですが、

そろそろ春にむけての冷えとり、

こころやからだの準備をはじめていきませんか?

 

助産師でもある祐里先生。

婦人科のお話もおりまぜながら、

あらためて冷えとりの大切さを実感できる養生法をご紹介します。

 

(村井ふみ)

 

 

みなさま、こんにちは。

岐阜県郡上八幡(ぐじょうはちまん)という場所で

助産師&針灸師をしております、加藤祐里と申します。

ありがたいことに、リレーエッセイには2回目の登場になります。

 

今回のテーマは春にかけての養生法について。

 

わたしが住む岐阜・郡上八幡は4月ごろまで雪が降るので、

「春」といわれてもピンとこないように感じますが、

日の出の時間が早くなって、

朝陽が上ってくる位置がだんだんと北側に寄ってきて

部屋のなかに差し込む光が変わってくると

新しい季節がやってきていると感じます。

 

東洋医学では、春は肝臓の季節と言われています。

 

肝臓は血液を全身の臓器に分配する働きをします。

筋肉、目、髪、肌……。

 

特に「目」が最も血液を消耗する臓器と言われています。

 

今の人は携帯やパソコン、不規則な生活で

人類史上かつてなかったくらい目を酷使しているため、

血液を消耗しやすいし、肝臓への負担も激しいのです。

 

東洋医学的には血液が減ってくると、

筋肉の凝り、痛み、冷え、目のかすみ、かゆみ、

視力の低下、髪のパサつき、しみ、肌荒れ、

便秘、イライラ、クヨクヨ、不眠……

といった症状があらわれます。

 

さらに、マーマーガールに忘れてほしくないのは、

子宮は筋肉でできているということ。

 

女性は男性以上に毎月、生理もあるし、

妊娠・出産・授乳で血液を必要とします。

子宮を養う血液が減ってくれば、

子宮が硬くなったり冷えたりして、

生理痛や不妊、更年期でトラブルが

増えてきても仕方ありません。

 

また、肝臓は「怒り」の臓器。

 

わたしは「タッピング」という

アメリカ発の心理療法を治療に取り入れているのですが、

(からだのつぼを決まった順番にたたいていって、

問題の根本になっている過度の恐怖・不安・悲しみなどの

マイナスの感情をはずしていくような働きかけをしています)。

 

婦人科に問題があるかたにタッピングをしていくと、

 

◯過去に生理のときやブラジャーをつけなくてはいけなかったとき、

男性と同じようにできないことで「女なんて面倒くさい」

と自分の女性性を疎ましく感じた経験がある

 

◯小さいころにお兄ちゃんや親戚の服のおさがりが多くて、

男の子みたいな恰好をさせられていた

 

◯「あなたには女の子らしい色や服装や髪形は似合わない」

「男の子だったら良かったのに」と言われたことがある

 

というエピソードがある方の中には、

自分が「女らしく振るまうこと」に自信がなかったり、

「子宮がある自分」に怒りや悲しみを抱えている方がいます。

 

また、日本の女性に本当に多いのが

「自分のお母さんがたのしそうに生きていなかった」

という声です。

 

お母さんがいつもため息をついていたとか、

疲れてつまらなさそうな顔をしていたとか、

化粧もろくにしないで、いつも自分のことより家族優先で、

好きなことにお金を使うこともなく忙しくしていたなど、

自分の一番身近な女性のモデルが

女性であることをたのしめていないと

「女って損だな」と無意識に思ってしまうのです。

 

産婦人科医師で「胎内記憶」の研究をしている

医師の池川明さんによると、

 

お腹のあかちゃんはお母さんを喜ばせたくて、

幸せにしたくて生まれてくるそうです。

子どもとは関係のないことで悩んでいても、

お母さんがたのしそうでないだけで、

子どもは自分が役に立てていないのでないかと

自信がなくなってしまうそうです。

 

日本人は怒りや悲しみを

顔にはださないことを美徳とします。

最近は「あまり怒らないお母さん」のほうが

いいような風潮があります。

 

ですが、感情は「排泄物」です。

 

汗やおしっこと同様で

生きていれば自然に出てくるものです。

 

トイレで排泄するみたいに

適切な時期に適切なタイミングで出していれば、

内臓を傷めるほどからだの奥深くまで

溜めることはないのです。

それを無理やり出さないように、

「良い人」のふりして見ないふりして、

押さえつけていれば健康を害します。

 

誰かに昔の話を聴いてもらって

「よく頑張ってきたよね、その気持ちわかるよ」

と共感してもらえることも、感情の処理に効果がありますが、

何よりも大事なのは

「自分で自分に共感してあげる」こと。

 

本当は、わたしは怒っていたんだ、悲しかったんだ、

と感情を認めてあげてほしいのです。

 

自分が自分に厳しくして、

マイナスの感情を抱くことを許してあげないから、

人に慰めてほしいし、わかってほしくなる。

すると自分の思うようにしてくれない周りに対して

「八つ当たり」をするようになってしまいます。

 

では、今まで放置してきた感情をどうしたら、

自分で解消していくことができるか?

ホ・オポノポノやホメオパシーもおすすめですが、

それ以上に基本はやはり「冷えとり健康法」だと思います。

 

なぜなら感情は「思考」でなくて

からだの「細胞」が記憶しているからです。

 

例えば、交通事故にあったときに

ぶつかったケガ自体はたいしたことがないのに、

何か月も原因不明の痛みが続くことがあります。

 

「思考」では大きな事故ではなかったし

いのちに別状はなかったからと

理屈で起きたできごとを納得させることができますが、

からだの「細胞」で感じた恐怖の記憶は

からだへのアプローチでなければ癒すことはできません。

 

患部だけ治療していても意味がなくて、

「あのとき、怖かったよね。自分よしよし」

と、ゆっくりお風呂に浸かってからだを温めて、

靴下をたくさん履いて、自分に手間と時間をかけて、

からだに記憶した感情を癒してあげてください。

 

ところで、3月3日はひなまつりですね。

岐阜・郡上八幡では旧暦でひな祭りをお祝いする風習があり、

3月を過ぎてもひな人形をかざっています。

 

「福寄せ雛」といって、

八幡の城下町では、役目を終えたひな人形を集めて、

各店で自由にアレンジをして飾ります(4月3日まで)。

 

ひな祭りとは、おとなの女性になるための「いろは」を、

女の子に教えるような意味もあったとか。

今よりも昔のほうが何倍も「女であること」というだけで

悔しい想いをしていた女性がたくさんいらっしゃったと思います。

 

それでも、自分が自分を選んで生まれたことを

喜びに変えて生きるために、

「女の子のためのお祭り」が文化として

大切に残されてきたのではないでしょうか。

 



加藤祐里

かとう・ゆり|愛知県出身。年間1,000件以上のお産のある総合病院にて、助産師として務めたのち、東洋医学を学びはじめる。鍼灸マッサージ専門学校卒業後、結婚、出産、FMT自然整体の勉強、ふたたびの助産師としての勤務を経て、2012年4月、「自然の豊かな場所で子育てをしたい」という思いから、岐阜県郡上八幡へ移住。移住と同時に、自宅にて「郡上もりのこ鍼灸院」を開く。地元を中心にした多くの人々の健康相談にのっている。

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