murmurbooks

マーマーなリレーエッセイ

#4 山下賢二(ホホホ座 店主)

マーマーマガジンへ

 

デリケートな男性と貪欲な女性にとって、暮らしをどう快適に素敵に過ごすかというのはもっぱらの生きる上でのテーマです。本屋らしきものをやっている僕にとって、暮らし方を提案した本の類いは2000年ごろから俄然、増えてきたように感じています。誰しも生活なくては生きてはいけないので、そういう類いの本が求められるのは当然のことでしょう。今では、地方のフリーペーパーや台湾などのアジア圏などでもそういうテイストの本が増えてきているようです。「目利き」というマジカルな存在の人たちもそういうシーンで、活躍しています。

僕たちホホホ座が、2014年に出版した『わたしがカフェをはじめた日』はそんなシーンへの新しい提案であり、問題提起の1冊でした。女性の自己実現の<理想の形だけ>を提示するのではなく、そこに至る紆余曲折を7組の女性たちに聞いたリアルな群像劇です。京都で一人で自分の居場所のようなカフェや喫茶店を始めた女性たちに、その開店までの物語をインタビューしました。彼女たちの年齢は、現在、30~40代の世代。その中には、たくさんの意外な言葉がありました。そして、彼女たちの世代に共通していたのは、2000年頃から創刊し始めた<暮らし提案型雑誌>の影響でした。

彼女たちはそれらの世界を手本にし、また、ある時は反面教師にしてきた世代です。洋服、料理、カラダ、芸術、生活道具、精神性、恋愛。それらの判断基準を雑誌から学んだり、参考にしてきたところも少なからずあるようです。そういう雑誌の進化系にあたるのが、マーマーマガジンではないかと僕は思っています。

マーマーマガジンを最初に目にしたのは、僕が前に営んでいたガケ書房のときでした。創刊準備号ということで、見本誌が送られてきました。いつもたくさんの本の持ち込みがあるのですが、マーマーマガジンの第1印象は、まさに「ZINE」(簡易型小冊子)という感じでした。テイストが海外のZINEのようで、当時としては、斬新でもあり、未知数な領域でした。もちろんまだ服部みれいさんの名前は存じ上げず、その謎に満ちた冊子を僕は、店で取り扱うべきか少し考えました。

いつもはすぐに決定できるのですが、なぜかその時、答えを何日も先延ばしにしていたのを覚えています。どうして僕はあの時、すぐに答えを出せなかったのか? 今から思えば、新しいものを見たときの戸惑いだったのかもしれません。果たして、商品として成立するのか? というのが僕の判断基準なのですが、そのときは「この新しい編集長の意気込みに賭けてみよう」という思いで発注させていただいたように思います。それから、号を重ねるごとにマーマーマガジンはパワーアップし、服部みれいさんの名前も各所で聞きはじめるようになってきました。ガケ書房ではいつも完売し、創刊準備号からバックナンバーを扱っていたので、それを求めるお客さんもたくさん現れました。

そして先日、マーマーマガジンがやはり生活提案誌の進化系なんだなと思うことがありました。元々、他の提案型雑誌と違い、見かけの暮らし提案よりも人間の内面的な提案に重点を置いていたのは理解していたのですが、今度は男性向きの、それもナヨナヨナルシストおしゃれ男子のためではなく、野性味や生命力やユーモアを持つ男性への提案誌を創刊されたからです。これは、男性の一人としてありそうでなかった絶妙なラインの提案だと思っています。本来であれば、ワイルドな内容の素材をマーマーマガジンという魔法で魅せてしまう編集術は、編集企画グループでもあるホホホ座も見習うべき姿勢です。

そしてさらに驚くべきことは、次号から本誌も、詩とインタビューで構成された雑誌に生まれ変わるということです。これはもう、進化系ではなく、まぎれもない最新型の雑誌提案だと思います。メディアが転換期に差し掛かっている今、<ことば>を中心に据えたものこそ、過激で優しい提案ができうると考えます。服部みれい、あっぱれ!



山下賢二

やました けんじ|1972年京都生まれ。2004年2月13日(金)~2015年2月13日(金)まで、ガケ書房店主。現在、編集企画グループ・ホホホ座座長。来年、渡米しない予定。京都市左京区と広島県尾道市に、同名の店舗を展開している。著著に「わたしがカフェをはじめた日」(小学館)。ミシマ社からの新刊を鋭意編集中。