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マーマーなリレーエッセイ

#14 加藤祐里(郡上もりのこ鍼灸院・鍼灸師)

 

夏の養生術

 

マーマーマガジン編集部は、美濃に移ってきてから

周辺にお住まいの方々に、本当によくしていただいています。

その中に、郡上八幡の鍼灸の先生

加藤祐里先生がいらっしゃいます。

 

祐里先生が教えてくださる養生法が、本当にすばらしいんです

(こんにゃく湿布を勧めていただいたのですが

実際にやると、からだがすっと軽くなり

湿気の多い美濃で、手放せない養生法となりました)。

 

ということで今回は、祐里先生に

「夏の養生」をテーマに、ご執筆をお願いした次第です。

 

祐里先生は、鍼灸師の前は助産師。

さらに、名古屋から郡上八幡へ

移住して4年の移住者でもあります。

 

祐里先生ならではの大らかな視点で、

スカッと青空を突き抜けるような

養生エッセイです。

 

(川口ミリ)

 

 

 

◎助産師を経験して気づいたこと

 

みなさま、はじめまして。

加藤祐里と申します。

マーマーマガジンのある岐阜県美濃市のおとなりの

郡上八幡(ぐじょうはちまん)という場所で、

針灸治療院をしています。

 

郡上の夏は、夜を徹して行われる

江戸時代から続いている「徹夜踊り」が有名で、

日本一の鮎が泳ぐ清流や秋の紅葉、冬はスキーと

豊かな自然と古い歴史を誇る街です。

 

 

まずは、自己紹介からさせてください。

わたし自身は愛知県名古屋市に生まれ、

長男の小学校入学を機に自然豊かな場所で子育てをしたくて

4年前に、親戚も知人もいない郡上に引っ越してきました。

それまでは、約13年間ほど名古屋の産婦人科に勤めて

助産師をしていました。

 

23歳で助産師として働き始めた病院では

年間1000件以上のお産があるような病院で、

一晩に5人くらい赤ちゃんが生まれることも

めずらしくありませんでした。

 

しかし、わたしには

“陣痛を止める”ふしぎな力?があるらしくて

陣痛で入院してくる人がいても、

なぜかお腹を触ったとたんに痛みがなくなることがありました。

また、わたしが勤務している時間帯には入院の電話も鳴らないのです。

だから、同期の助産師が100人のお産の介助を経験しているとしたら

わたしが経験したのはその半分にも満たないくらいかも……。

 

 

病院では、できる限り、ありとあらゆることを試しました。

なかなかお産が進まない産婦さんの腰を一晩中さすったり、

安産のため、病院の階段を産婦さんと一緒に昇って

自分も筋肉痛になったり、

お産にいいといわれるアロマや整体を

積極的に取り入れてみたり。

 

 

そういった経験のなかで気づいたことは、

「陣痛がはじまってからアレコレしても遅くて、

妊娠中、もしくは妊娠する前から

元気な赤ちゃんを授かるためのからだとこころの準備が必要」

だということです。

 

西洋医学的な検査が中心の妊婦健診で

まったく異常がなかったとしても、

絶対に安産で産めるとも限りません。

 

お腹の赤ちゃんに安全で、

妊産婦さんにとっても気持ちよく、

女性の一生を継続的にサポートしていけるような

知識と技術を身に着けたくて

針灸マッサージ師の資格を取得しました。

 

 

◎目一杯の夏遊びが養生になる

 

ところで、2月の妊婦さんと9月の妊婦さんとで、

どちらのからだが冷えていると思いますか?

 

実は、9月の妊婦さんのほうが冷えているんです。

お灸をしても、まったく熱さを感じないようなこともあります。

 

5月くらいから、昼も夜もクーラーの効いた室内で過ごし、

冷たい飲食を摂って、ほとんど汗をかかないような生活を続けていると、

自律神経が乱れてしまいます。

 

まだ、冬は寒いから、靴下くらいははきますが、

夏は暑いからと無防備な方が多いです。

 

 

妊婦さん(更年期の方も)は暑がりで汗をよくかくため

「冷え」の自覚がないことが多いです。

でも、上半身がのぼせて、下半身が冷えて

「氣」のバランスが悪くなっていることが多いです。

 

からだが冷えていると、妊娠中に

逆子や切迫早産などのトラブルも起こりやすいです。

また、難産、産後の出血が増える、母乳が充分に出ない、

赤ちゃんの夜泣きや便秘、湿疹などのトラブルが起きたり、

また、産後うつなど、精神的にも影響が出ます。

 

「ひとつ前の季節の養生が、次の季節のからだの状態に現れる」といわれます。

夏にからだを冷やした結果、妊娠中の方に限らず、

生理痛のある方や赤ちゃん待ち、更年期の方の中にも

秋に体調を崩す方が増えるのです。

 

 

今回、「夏の養生」をテーマに書いていますが、

実はわたし自身、それほど冷えとり健康法を中心に

生きているわけではありません。

 

夏休みには、毎日のように

家から徒歩3分の清流・吉田川に

子どもと一緒に泳ぎに行きます。

 

昼ごはんは、簡単に済ませられる、そうめん。

おやつは、スイカやきゅうり。

 

夜は盆踊りが1か月以上続くため、毎日寝不足です。

踊って汗をかけば、冷たいビールは必須!

街全体が踊り一色で、

普段はひとり暮らしのおばあちゃんの家にも孫や親戚が集まってきて、

みんな、仕事どころじゃないくらい、なんだか落ち着きません。

(この時期になると逆に、

肩こりや腰痛の患者さんが減るような気がします。)

 

 

◎何ごともせっせとたのしむ

 

1年を72の時期に区切った、昔ながらの日本の季節

「七十二候」をご存知ですか?

 

「七十二候」において、

立秋のはじまりの頃、8月7日ごろから

「涼風至(すすかぜいたる)」と呼ばれる季節があります。

 

実際に郡上では、お盆を過ぎると、

朝晩に涼しい風が吹いて、ひぐらしが鳴いて、

川の水の温度も冷たすぎて30分も入っていられなくなります。

まさに、「涼風至」の名のとおりです。

 

都会に住んでいると「暑いか、寒いか」だけで

季節の移っていく境目を実感することが

少なくなってくるように思います。

 

都会の人が夏、田舎に来ると、

観光スポットを見に行ったり、

アウトドアでワイルドに過ごさないと

いけないような気になるかもしれませんが、

逆に何もしないで、のんびり過ごすのも

とてもいいものですよ。

 

昼間、日なたは都会と同じように暑くても、

木陰にじっと座っていると、気持ちのいい風が吹いてきます。

空の青、山の緑、虫の鳴き声、川の水の温度、

日の光を浴びて、月を眺めて、畑で採れた旬の野菜を食べて、

五感で「地球」を感じるときが何よりもの養生のような気がします。

 

 

わたしは都会で生まれ育ち、母も働いていましたから、

夏休みでもどこかに遊びにいったりすることもありませんでした。

 

わたし自身、仕事が好きで、

休みなく働いていたときもとても充実していたけど、

田舎に引っ越してきて、ようやく

「自分にたのしむことを許さずに今まで生きてきた」

ということに気づけるようになりました。

 

 

どんな養生でも、どこに住んでいても、

自分に正しさや厳しさだけを求めているうちは

「修行」になりがちです。

手を抜いたり、たのしんだりする自分に

罪悪感を感じてしまいます。

 

人生は一度きりです。

短く一瞬で終わってしまうような

田舎の夏をせっせとたのしむように、

何ごとも、「いつか行こう。いつかやろう」と後回しにせず、

自分にしか体験できない今をたのしむことが、

今年の夏だけではなくて

“生きかたの養生”になるのでないかと思います。



加藤祐里

かとう・ゆり|愛知県出身。年間1,000件以上のお産のある総合病院にて、助産師として務めたのち、東洋医学を学びはじめる。鍼灸マッサージ専門学校卒業後、結婚、出産、FMT自然整体の勉強、ふたたびの助産師としての勤務を経て、2012年4月、「自然の豊かな場所で子育てをしたい」という思いから、岐阜県郡上八幡へ移住。移住と同時に、自宅にて「郡上もりのこ鍼灸院」を開く。地元を中心にした多くの人々の健康相談に乗っている。

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