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マーマーなリレーエッセイ

#11 岡澤浩太郎(編集者)

 

100年後もみずみずしい雑誌

 

こんにちは。

今回ご寄稿くださった岡澤浩太郎さんは、

『マーマーマガジン フォーメン』を

創刊号より担当してくださっている編集者さん。

とくに最新号(2号)では、

特集を中心にたくさんの記事を担当してくださいました。

編集者からみた『マーマーマガジン』とは――?

 

美術に造詣が深い岡澤さん。

一見とてもクールな印象の方なのですが、

いただいた原稿を拝読して、そのあふれんばかりの情熱にびっくり!

ぜひ新刊『フォーメン』第2号と併読してください

(編集部 川口ミリ)。

 

 

うーむ、困った。編集部のミリさんからのフォーメンとマーマーマガジンについてのエッセイの依頼を受けたのだが、よーく考えたら難しいお題だった……。あ、申し遅れました。編集の岡澤と申します。フリーランスのスタッフとしてフォーメンの編集にかかわっています。フォーメン2号ではパーマカルチャー特集をはじめ、いろいろな記事をやらせていただきました。

ところで私、大の苦手が二つあります。それは自己紹介と自己PR。だから今回のお題のように自分のことを大っぴらに言わざるを得ないのはなんとも気恥ずかしいのですが、まあでも、せっかくの機会をいただいたのでやってみましょうか。私がみれいさんと出会い、フォーメンにかかわるようになった経緯について……。

 

もともと私は音楽が好きで、学生時代はバンド活動に明け暮れ(担当楽器はドラム)、卒業後は「音楽が好きだから」というただそれだけの理由でFMラジオ局に入社したものの、社会勉強を重ねるうちに自分の手をじっと見つめ始めたのが20代後半。「そういえば俺、本も好きだったなあ」と思い出し、勢いで出版社に転職しました。

幸か不幸か、音楽好きと言ってもフランク・ザッパや黒っぽいフリージャズをこよなく愛し、映画はアメリカの実験映像と鈴木清順、文学はエメ・セゼールと赤江瀑を崇拝しているサブカル野郎の私は、いろいろあって『STUDIO VOICE』という雑誌の編集部に在籍することになりますが、数年後にあえなく休刊。編集部は解散となり、私は野に放たれました。

それからの私は情報を遮断し、新しい事象を追うことをやめました。新しいだけでは価値にならないと思ったからです。『STUDIO VOICE』では最新の美術の作家や作品を紹介する「アート担当」だったわけですが、現代美術の動向を追うことをやめ、興味は代わりに時代をさかのぼっていきました。何でしょうね、何かしらの確かさのようなものを求めていたのかもしれないです。近代、江戸、鎌倉、飛鳥……最終的にたどりついたのは、宗教以前の世界でした。権力がまだ国家らしき姿をまとう前。人々は何らかの教典に描かれた神ではなく、伝承のなかにある氏神の類を信じた。そんな時代でした。

詳細はざっくり省きますが、その当時の文化は、「ご先祖様が宿るもの」を指すという考え方があります。たとえば、御幣の形、神社の建築、神主が着る服、祝詞の文面、神楽にみる舞踊や音楽、布や紙の素材などがそれです。どれもその土地の歴史と風土に結びつき、自然のなかから生まれてきたものだそうです。「これが自分にとっての文化だ!!」と直感した私は、当然のように自然、つまり植物や森に興味を向けていったわけです。私にとって自然を考えることは、文化を考えることと同じになりました。

 

つまり、キーワードは二つ。

ひとつは、「芸術の起源を知りたい!」

もうひとつは、「森と暮らしたい!」

 

折しも当時はリーマンショックの余波が冷めやらず、東日本大震災まで起こってしまった、まさにあの頃。私は再就職に見事失敗し(全滅!!)、やむなくフリーランス稼業を始めたばかり。世の荒波に半ばヤケ酒をあおりながら「芸術の起源なんだよおおおおお」と喚き散らして多大なご迷惑をおかけした夜も少なくありません。そんな悲痛の叫びに、私のことをサブカル野郎だと思い込んでいる周囲は「芸術の起源?」と怪訝な顔。とうとう岡澤は頭がおかしくなったのか。それともただのアル中か。いやいや、俺は正気なんだよ!!(泣) おいマジかよ孤立無援か畜生め、と思われましたが、そんな思いに「私も!」と初めて同意を示してくれたのが、ほかならぬ服部みれいさん、その人だったのです。

みれいさんはコズミックワンダーのNさん(彼女も巫女のような人でありますが)から紹介されたんですが、初めて盛り上がったのは縄文の話でしたかね? それから縁あってフォーメン創刊号をお手伝いさせてもらうことになり、「え、不食?」と思いながら、ただならぬ気配を傍で感じておりました。そういう、全宇宙を分け隔てなく見通すような内容ももちろんすごいんですが、雑誌にもかかわらず広告収入に依存していないとか、取次を通さず流通しているとか(しかも買い取り!)、私が出版業界に対して常々思っていたのと同じ問題意識をもっていて、かつ解決しようと日々活動しているのが、(大変おこがましいですが)同業者としてとてもうらやましく、まぶしく映ったのです。

そして、好評いただいた創刊号の自社広を見て初めて知った(遅い)、ソーヤー海君の『都会からはじまる新しい生き方のデザイン URBAN PERMACULTURE GUIDE』を手に取り、「こ、これは……森との生活では!?」と目からウロコがてんこ盛り。勢いでフォーメン第2号刊行に向けた編集会議で「パーマカルチャー特集をやりたい!」と提案したら、みれいさんも同じことを考えていた、というのが2015年の春でしたかね? こうして「芸術の起源」と「森との生活」という自分のなかの二つの軸が、フォーメンという雑誌で実現できることになったのでありました。

 

こうやって書いてみると、んー、本当にラッキーですね。いやいや、ありがとうございます。多分ですけど、人間って、何もなかったと思えるような一日でも、いろいろな人やものに出会ってて、だけど「それを運命と思えるかどうか」が大事なのかもしれないなー、と思ったりしてね。まあ、まずは、出会えたことに感謝。そして、寄り添えたことに感謝。です。

マーマーマガジンって、多分そういう出会いや「気づき」みたいなものが、いっぱい詰まった雑誌だと思うんです。もちろん世にある雑誌でもいろいろなものが紹介されてますが、そういうものよりも、何と言うか、もっと「流されないもの」というか、「そもそもそこにあった(はずの)もの」というか。それってきっと、10年後も100年後も「同時代のもの」として読めるくらい、みずみずしく輝いていると思うんです。そしてきっとみれいさんは、そういうのをぐいぐい引き寄せているんだろうな。読者の方なら、何となくわかりますよね?

 

さてさて、先ごろ世に出るに至ったフォーメン2号は、そんなわけで、私がこれまでかかわらせてもらった雑誌や書籍のなかでも、相当な想いが詰まった号になりました。親愛なる読者のみなさま、楽しんでいただけましたでしょうか? パーマカルチャーに対する私の思いを語り始めると千夜一夜物語レベルになるのでざっくり省きますが、ひと言だけ! 言わせていただくなら!! パーマカルチャーの考えに沿えば、身の回りの全部(食糧問題も環境問題も医療も経済も地域社会も、そしてメンタルな世界だって)を、明るく、楽しく、世直しできるんです!! 鼻息!!

ま、春なので、パーマカルチャーだけでなく、フォーメン2号でご紹介しているそのほかのいろいろなことにも(ギフト経済とかね!)、種を蒔くみたいに、できるだけ多くの人の心に届くといいなと思っています。そして近いうちに、また誌面でお会いしましょう! ではでは。



岡澤浩太郎

おかざわ こうたろう|1977年、東京生まれ。ラジオ局勤務を経て、2006年よりINFASパブリケーションズで編集者としてのキャリアをスタート。『Tokion』『STUDIO VOICE』を手がけ、2009年よりフリーランス。担当出版物に、『murmur magazine for men』、西江雅之『異郷 西江雅之の世界』(美術出版社=刊)、林央子『拡張するファッション』(DU BOOKS=刊)、芸術祭のガイド本など。『TRANSIT』(講談社=刊)、『美術手帖』(美術出版社=刊)などの雑誌にも関わる。2015年より出版レーベルを開始、現在仲間を募集中。趣味はボルダリング。

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