murmurbooks

マーマーなリレーエッセイ

#10 白金丈英(半農半主夫)

 

健康になるだけが、冷えとりじゃない

出合うだけが、つながりじゃない

 

取材・文|川口ミリ

 

今回は、美濃でスタートした

日本みつばちのワークショップ

講師をつとめてくださっている、

白金丈英さんのご登場です。

『別冊マーマーマガジン body&soul2 冷えとりとファッション』では、

統合失調症を、冷えとり健康法を中心にして

克服した体験を掲載させていただきました。

 

今回のインタビューで、

白金さんが伝えてくださったのは、

冷えがとれたあとのお話。つまり、

「冷えがとれて

心身ともに整ってきたあと、

いったい世界はどんなふうに見え、

どんなことが起きるのか?」ということです。

白金さんご自身の経験に基づいた

すてきなお話の数々に、

ただただ、わくわくしてしまいます。

 

ではさっそく、

白金さんのお話をご紹介します。

 

 

◎冷えがとれると、つながっていく

 

冷えとりをしていると、どうしても、

冷えがとれることがゴールのような気がしてしまいます。

でもそうではなくて、冷えとりをして、

からだがよくなってからがスタートです。

 

冷えとり健康法の第一人者である

進藤義晴先生がよくおっしゃっていたんだれど、

冷えとりを続けてからだがよくなると、

たとえば、並んでいる野菜の中から

自分にとって一番いいものがどれか

わかるようになる、と。

第6感的なものというのか……、

ことばでは説明できないけど、

本当に自分にとって大切なものが

見分けられるようになるんです。

 

人間関係においても同様です。

からだがよくなればよくなるほど、

その人にとって

ほんとうに必要な人を引き寄せるようになる、というのを

すごく感じています。

 

繰り返しになりますが、とにかく

よくなった状態からがスタートなんです。

 

 

以前、僕は統合失調症という病気でした。

幻覚や妄想がひどくて、

精神科の病院に4か月入院というときも……。

この病気がきっかけで、

相手にひどいことをいってしまうことがあり、

症状が出るたびに、

友だちをなくしていくような状態でした。

この病気がきっかけとなり、

進藤先生のもとで学ばれたT先生の指導のもと、

冷えとりを実践しました。

 

料理人をやっていた頃に、一度、

からだをこわしてしまったことがありました。

それで、T先生に

「何をしていいかわからないんです」といったら、

2冊の本を渡してくれました。

 

福岡正信さんの『自然農法 わら一本の革命』(春秋社=刊)と

川口由一さんの『妙なる畑に立ちて』(新泉社=刊)。

 

「読め」と強制するんではなくって、

「これ読んでみる?」という感じで。

 

読んでみて、

「この農法だったら、やってみたい」

と思いました。

農業高校に通っていたときは、

「農業なんてやりたくない」

と思っていたのに(笑)。

 

自然農をはじめて、

そこからも、いろんなつながりができました。

 

 

先ほどお伝えしたように

病気が原因で何度もなくした友だちですが、

今はたくさんいます。

それぞれにいろいろなきっかけがあって、

つながっていっています。

 

「偶然は必然」じゃないけど、

やっぱり、全部のことに意味がある。

ほんとうに縁がある人というのは

自分が縁をつくらなくても

不思議と、絶対につながります。

まったく関係のない場所でつながることさえあります。

 

実は『マーマーマガジン』に縁のある友だちも

けっこういるんです。

『カンタ・ティモール!』の広田奈津子さん、

「健一自然農園」の井川健一くん、

「Share Seeds」主宰の末木秀和さん、

元・「Shikigami」で

フォレストガーデンを実践されているアサコさん、

『マーマーマガジン』を取り扱っている

「雨の本屋」の藤野由香梨さん……、

すべて、やっぱり、「必然」なんです。

 

 

◎自然と社会性/自然と芸術

 

思想家のサティシュ・クマールは

「3つのS」が大事だといいます。

 

「Soil(土)」、「Soul(魂)」、「Society(社会)」です。

 

これがすごく腑に落ちました。

「土」に触れることによって、

まず、「魂」、こころの健康を、

そして、「社会」性を得ることができました。

今は多くの友だちがいるけど、

別に「友だちをつくろう」と思ったわけじゃない。

からだとこころがいい状態になり、

社会性ができてきたことの結果かなと思います。

 

 

あと、自然と芸術は切り離せません。

 

うちの子ども2人は、今はそれぞれ

ピアノと陶芸を続けています。

自然に触れる機会が多いと、

クリエイティブな発想が

降りてきやすいんじゃないかな。

 

僕も、もとから今みたいな

ナチュラルな生活をしていたわけじゃなくて、

服飾関係の専門学校を出て

アパレル業界にいたんです。

ファッションとかサブカルチャーが好きで、

着道楽だったから、当時はヨウジ・ヤマモトやY’sを着たりして。

クラブで夜あそびしたり、ライブに行ったり、

映画を観たり、美術館に行ったり。

 

一見そうは見えないかもしれないけど、

自然とカルチャーはすごくつながっているという気がします。

都会に住んでいる人も、ちょっとでも

土に触れるような生活を取り入れていくと、

きっといいんじゃないかな、と思います。

まさに、ソーヤー・海くんのいう

「アーバン・パーマカルチャー」ですね。

 

 

◎出合うだけが、つながりじゃない

 

近年は、自分で、ワークショップや

イベントを開催することもあります。

最近はあまりできていないのですが、

冷えとりの集まりもときどき開いています。

 

みんな、冷えとりをしていることを

まわりにいわないんですよね。

昔に比べたら認知度が上がって、

だいぶいいやすい環境にはなったと思うんだけど。

冷えとりしている人同士が出合い、

つながるきっかけをつくりたいんです。

 

集まりを開いても、その日に結果が出るわけじゃない。

でも、集まること自体が

種まきになっているなという気がしています。

それぞれの中に、腑に落ちる部分があって、

時間が経つと、それが熟成されていって、

また違う形で、その人の糧になっていくというのかな。

そんなに大きく結果が出るわけじゃないんだけど、

確実に何かの気づきのきっかけになっている。

どこでどうなるかわからないんです。

 

どんな集まりでも、どんな活動でもそうです。

 

 

たとえば僕は、

『RICE PAPER 88』というフリーペーパーを

いろんなお店へ配布するお手伝いを、

10年くらいボランティアで続けています。

それで、

『わたしの手帖 2016』付録編に載っている

「結友舎」主宰のゆかさんと、ともくんが、

知多の東浦にあるカフェ「ひとつむぎ」で、

僕が置いた『RICE PAPER 88』を

たまたま手にとった。

その号の特集内容のひとつに、

パーマカルチャーがありました。

 

ゆかさんと、ともくんは、

それがきっかけでパーマカルチャーを知り、

パーマカルチャー安曇野で学んで、

今は知多半島で「トランジション・タウン」

(町をエコで持続可能な状態にシフトさせようという試み)

を実践しようとしています。

僕はフリーペーパーを置いただけなんだけど、

そこまで広がるわけです。

 

 

みんな、自分の力を「非力なんじゃないかな」って

思いがちなんだけど、そうじゃない。

何気なくとっている、ささいな行動でさえ、

結果的に与える影響は大きいという気がします。

 

将来のビジョンをもつことも重要だけど、

日々の自分にできる小さな行動を大切にするというのも、

最終的には大きいことにつながっていくような気がします。

人ひとりの力って、よくも、わるくも

思っている以上に大きいんじゃないかな、とも思います。

 

SNSでは、つながりが可視化されるけど、

実際は、そういうものがなくても、

もともと人間ってつながっているんです。

昔の人は、テレパシー、じゃないけど、

自分にとって必要な人、つまり、縁がある人とは

絶対につながっていたみたいです。

 

 

僕の、たねやみつばちのワークショップにくる人たちも

やっぱり「必然」で、参加してくれている

という感じがしています。

リアルSNS、みたいな感じです(笑)。

 

もともとつながっている、ということに対して

気づきを得ることができる場づくりを、

今後も続けていけたらいいなと思います。



白金丈英

しろがね・たけひで|愛知県在住。29歳のときに冷えとり健康法、マクロビオティックの考えに出合う。テキスタイルデザイナー、料理人を経て、その後、自然農を学び、現在は半農半主夫で、妻・子ども2人、犬1ぴきと暮らす。ライフワークとして知多半島を中心に、食の多様性を守りつないでいくため、たねの交換会と日本みつばちの保護活動を行なっている

Twitter