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マーマーなリレーエッセイ

#35 わたしの手帖インタビュー7

 

『甘い、甘い、甘くて甘い』のこと

 

いよいよ12月ですね。

年末の声が聞こえると、気持ちがざわざわして、

ちょっぴり焦ってきますが、

そんなときは「旧暦だとまだ秋だ〜」と思うと、

ちょっと気が楽になるかもしれません。

――というお話が『わたしの手帖2018』の1月の

「季節のみれいメモ」に載っています!

すでにお持ちの方は見てみてくださいね。

 

『わたしの手帖2018』、発売からまだ1か月たっていないのですが、

なんと!

mmbsでも版元としても(書店さん用も)完売いたしました!!

まだ購入していないという方、

手帖、日めくりッカレンダー お取扱店」には

まだ在庫がある可能性がありますので、

ぜひ、覗いてみてください。

お取り扱い店リストはこちらです。

 

さて、今週のインタビューは、

『わたしの手帖』の姉妹品、ポケットマーマー(ポケマ―)シリーズの新作、

『甘い、甘い、甘くて甘い』のお話です。

#28 わたしの手帖2018 第5回」でも

みれいさんがお話しているので

まだ読んでいない方は、こちらも読んでみてくださいね。

 

***

 

◎『甘い、甘い、甘くて甘い』の原点は……

 

 

野田 『甘い、甘い、甘くて甘い』、もしかしたら最初に出たときのことをご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

服部 2011年のことですからね。あらためて説明すると、当時、カウブックスのリトルプレスフェアに出展することになって、そのときに限定1000部でつくった詩集なんです。

 

野田 1000部って、個人的に出すにしてはすごい数ですよね。

 

服部 そうそう。普通は100部でも多いくらいなんです。

 

野田 しかも、ちゃんとデザインして、印刷所で刷って……。

 

服部 その前の年もリトルプレスフェアに出展したんですけど、そのときは手描きのオラクルカードをつくったんです。かわいい箱も用意して、リボンをかけて。オール手づくり。

 

野田 すごいレア! わー、それ、見てみたかったです。

 

服部 自分で言うのもなんですけど、すっごくかわいかった! おかげさまですぐに完売してしまいまして……。1年目はそんなふうに完全手づくりだったので、2年目は、せっかくだから本格的につくることにしたんです。『わたしの手帖』のデザイナーでもある中島基文さんに装丁をお願いしたら、とってもすてきな詩集になって。結局、1000部刷ったのに、すぐに売り切れになりました。

 

野田 この頃、ちょうど『あたらしい自分になる手帖』もつくっていた時期で、よく事務所にお伺いしていたから、わたしもできたての『甘い』を拝見しているんです。さりげない佇まいがほんとうにすてきで、「これは持っておきたくなるな」と思ったのを覚えています。だから、今回このポケマーシリーズで復刊できるのが、とってもうれしかったです。もう一度中島さんにデザインをお願いしましたが、サイズが変わっても、元本の雰囲気は色濃く残っていますよね。

 

服部 はい、元本を見たことがない、という方も、このポケマ―で、雰囲気を感じ取っていただけるのでは、と思います!

 

 

◎詩は、無意識の世界からすくいあげたことばたち

 

 

服部 ここに載っている詩は、今読むと、ちょっと気恥ずかしくもあって(笑)。なんか「女の子」って感じがすごいですよね。

 

野田 むっちゃガーリーでした。東京に住んでいる女の子の姿が浮かびました。

 

服部 そう、都市の女の子。ちょっとパンクが好きで、おっさんたちにはわかるまい、みたいなノリがあって(笑)。今のわたしだと書けない詩がけっこうあります。でも、そういう「少女性」みたいなものって、多くの女性の根底にある部分だし、『マーマー』の世界観が好きな方には、気に入っていただけるんじゃないかな、と思っています。

 

野田 詩は、まったくの門外漢なので評論などはできないんですが。わたし、この間、テレビでドラマを見ていたら、登場人物が坂本九さんの『涙くんさよなら』を歌っていて、なぜだか涙が出てきたんですよね。その後にたまたまこの『甘い』のゲラを読んでいて、「牧歌的な音楽」という詩に、同じ話が出てきて、びっくりしまして。そのときに、「詩っておもしろいな」と思ったんです。

 

服部 そうそう。シンクロする感じ……わかります?

 

野田 こころのどこかに漂っていたことばとか、そのとき感じた何かに、思いがけず再会したというか……なんか、こんなふうにワープできるんだな、と思いました。

 

服部 そうなんですよ。わたしも、決して、詩人としてメインで活動しているわけじゃないんですけど、潜在意識に一度にもぐる感じが詩はすごいと思う。

 

野田 『だからもう はい、すきですという』という詩集まで出されているのに!

 

服部 もちろん、そうなんですが、わたしのメインの活動は文章を書いたり、編集の仕事をすることなので、詩は、「フレンチのシェフがときどきつくる和食」みたいな感じなんですよね。でも、わたしにとってはその和食も、ほんとうに大事なものなんです。

 

野田 メインの活動ではできないことが可能になる、ということですか?

 

服部 そうですね、詩は、ふだん言語化できない部分をことばにするものだから、無意識下のことを表現しやすいんです。だからこそ、野田さんが体験したようなシンクロが起こったりするんだと思うんですよね。

 

野田 こころの奥を覗かれたような、すごく不思議な感覚でした。いろいろな鑑賞方法があると思うんですけど、わたしにとっては、「詩を読むぞ!」と構えるよりも、いろいろなことばが載っていて、突然、心に刺さる瞬間があったりするもの、という感覚で読むほうが、たのしめるのかなって。

 

服部 そうそう。そうなんです。パラパラッと開いて、そのことばを感じるみたいな読み方がいいと思います。わたしも詩集って、最初からきちんと読むということはないかも。どんなにすばらしい詩人が書いた詩集でも“とてつもなく好きな詩”って1つか2つだったりもします。でも、それでもいいと思うし、読むタイミングによっても「いいな」と思うことばは変わったりするから、たびたび開いてみると発見があるかもしれませんね。

 

野田 わからなければいけない、という思い込みがプレッシャーとなって、苦手意識を持ってしまっている方もいそうですよね。

 

服部 あとは、先ほどもいいましたが詩ってほんとうに無意識にふれるものというか、小説よりも、もっと深い鉱脈から来るもので。だからみんな、ちょっと恥ずかしく感じたりとか、抵抗を感じたりするのかもしれません。

 

野田 ああ、それはなんとなくわかります。

 

服部 でも、わたしの中では、無意識のあそびみたいな感じなんですよね。

 

野田 それが、読み手の側の無意識とつながるときに、おもしろさが生まれる、ということなのかもしれませんね。

 

 

◎ことばを、もっともっとたのしんで!

 

 

服部 わたしは数年前から、ジワジワ詩がキテるんじゃないかなって思っているんです。

 

野田 実際、『マーマーマガジン』も『まぁまぁマガジン』にリニューアルして、詩とインタビューの雑誌になりましたよね。

 

服部 最果タヒさんのように、あたらしい詩人の方も出てきていますし、川上未映子さんが責任編集した『早稲田文学増刊 女性号』にも力のある詩がたくさん載っていて、勢いを感じました。実際、3.11以降、詩集がとても売れるようになったという話も聞きます。

 

野田 そうなんですか?

 

服部 確実に、詩的なものを読みたいという機運は高まっていると思います。人がそういうことばを欲しているというか。1950年代〜60年代のアメリカでは、ジャック・ケルアックやアレン・ギンズバーグといった詩人が人気で、ポエトリーリーディングがとても流行したんですけど、その時期って、ベトナム戦争があったりして、社会不安も高まっていた時代なんですよね。やっぱり生きるのがとても大変な時代ほど、詩のようなことばの世界が必要とされる傾向はあると思います。

 

野田 この手帖インタビューの1回目でも、これから数年は社会の変動期というお話をされていましたけど、そういう時代だからこそ、ことばに力をもらいたい、というムードはあるかもしれませんね。

 

服部 2015年と2016年、愛知県で開催された「森、道、市場」というフェスで、アイルランドの音楽にのせて、即興でつくった詩を読むポエトリーリーディングを行ったんですが、とってもたくさんの人が集まってくれたんです。わたしの詩とアイルランドの音楽の相性がよかったみたいで、すごく盛り上がりました。

 

野田 ポエトリーリーディングだと、ライブ感も相まって、また違ったことばとの出合いがありそうですね。

 

服部 そんなふうに、もっとみんなことばであそんでいいと思うんです。だから詩を書くということ自体も気軽になったらいいですよね。あまり「詩とはこういうもの」とか難しく考えずに。だって、すでにみんなTwitterとかInstagramにことばを添えたりしているわけだし、それが詩みたいになっている人もいませんか?

 

野田 ハッシュタグが詩みたいな人、いますよね〜。

 

服部 あと、あいかわらずラップも人気ですよね。詩的なことばがあちこちにあって、それが詩というかたちを取っていなくても、実際は詩である、という場合も、けっこうあると思うんです。それなのに、詩に対して斜に構えて「詩人とか名乗っちゃいますか?」みたいに茶化したり、逆に何かにとらわれて「こんなのは詩ではない」と断じたり、そういうのはバカバカしいな、と思っています。暮らしの中にすでに詩はある。

 

野田 あー、逆にわたしは詩について知識ゼロだから、「詩はこういうもの」というイメージもなくて。ラップでいうところの「韻を踏む」みたいなお話ですか?

 

服部 もちろんすぐれた詩というものはありますけど、基本的には自由に書くのがいいと思います。ラップだって、ここ数年は、韻を踏まないものも人気みたいですよ。

 

野田 え、そうなんですか? 夫がラップバトルのテレビ番組が好きなので、けんかするときにわたしもラップで言ってみようと思って、一生懸命韻を踏む練習していました。実際にけんかの場では、全然うまく言えなかったですが(笑)。

 

服部 わたしも家で冷えとりラップ、やってます! 「絹綿絹綿」とか、「重ねてるかYO」みたいな。くだらなさすぎていうのも申しわけないんですが…。

 

野田 (笑)! たのしい! まあ、超余談になってしまいましたが、それぐらい、みんな気軽にことばであそべるといいですよね。実は、詩について知らないことが多すぎて、今回、感想を言うのも勇気がいったのですが、素直にことばを感じたり、発したりするところからはじめるのがよさそうですね。それが創造性を発揮させるきっかけにもなるかもしれませんし。

 

服部 はい、ここではことばにフォーカスをあててお話しましたが、やっぱり一番大切にしたいのは創造性なんですよね。その方法のひとつとして、「詩」という選択肢もある、ということです。

 

 

◎創造性の出口はいろいろ

 

服部 わたし、写真は詩と非常に重なる部分があると思っているんです。だから詩の雑誌をつくろうと思ったときに、写真を勉強したら詩がうまくなるかな、と思って、2014年に青山ブックセンター本店で行われたホンマタカシさんの写真教室に行ったんです。

 

野田 それ、すごくおもしろいお話ですね。

 

服部 無意識下のものを見る、という点においては、写真芸術がやろうとしていることと、詩がやろうとしていることはすごく近いと思うんですよね。だから写真と詩を同時に表現するのは本当にむずかしいなぁとあらためて思っています。

 

野田 メッセージ性の強いことばが添えられた写真集とかポスターってありますね。

 

服部 空の写真に「さあ、生きよう」みたいな。そういうときは、ことばか写真、どちらかひとつでいいんじゃないかと思うくらい、写真っていうのは詩と重なる部分があると思っています。ただ、わたしは写真にコンプレックスがあって、すごく好きなのに苦手なんですよね。

 

野田 そうなんですか? 全然そうは感じないですけど。

 

服部 詩の雑誌をつくることとともにもちろん写真への理解を深めたくて教室に通ったんですが、どうしても自分の写真にどんくささを感じてしまうんです。わたしの中でもっと撮りたい精度っていうのがあるんですけど、自分がそれに追いつけない。写真に必要な運動神経のよさがない。だから、わたしはどっちかというとことば向きなんだと思っています。ことばの速度のほうが自分と合っている。

 

野田 詩のほうが、無意識に追いつける、ということですね。それを考えると、みなさんも各々得意ジャンルというのがあるのかもしれませんね。

 

服部 詩や写真以外にも、無意識下のものを表面にすくいあげる方法は、たくさんあります。絵だってダンスだって、俳句だってあるし、音楽も各種ある。料理でもいいですよね。いろいろな世界があるから、その出口を見つけてほしいですね。プロになろうとか、うまくやろうとか、そういうことじゃなくて、自分自身を表現する体験を味わってほしいです。もっと自分の人生を芸術にしてほしい。わたし自身もそうありたいと思っています。

 

***

 

「詩」というと、自分から遠いもののように感じる方も

いらっしゃるかもしれませんが

(わたし自身がそうでした!)

もっともっと、自由にたのしめるのかな?と

思っていただけたらうれしいです。

 

ポケマ―版『甘い、甘い、甘くて甘い』、

手帖や洋服のポケットにすっぽり入るサイズでかわいいですし、

お値段もとってもお手頃なので、

気軽に詩に親しむきっかけになればと思います。

 

表の表紙もかわいいんですが、裏の表紙も素敵なんですよ。

『わたしの手帖』の表紙側に挟むと表側が、

裏表紙側に挟むと裏側が見えるようになっています。

 

 

もちろん、服のポケットに入れて持ち歩いても。

(まさにポケット詩集!)

大好きなことばは、ときにはお守りのように

みなさんのこころを守ってくれるかもしれません。

 

(野田りえ)